研究期間最終年度に当たる2022年4月~2023年3月の期間は、全期間に亘ってフィレンツェ大学における在外研究を行った。本研究の最終段階として予定していた、研究成果の国際発表の機会ともなり得るところであったが、実際には、新型コロナウイルス感染症の影響で大人数を集める大規模な研究会は下火であり、フィレンツェ大学の教授陣や博士課程の学生らと小規模な意見交換の機会を持ち得たにとどまった。とはいえ、本研究の最終的な研究成果はイタリアの議論に負うところも大きいため、現地の研究者との意見交換を通じて研究代表者自身の思考を深化させられたところもあり、貴重な機会となった。この収穫については、研究期間終了後にはなるが、日本に帰国後に論文の形にまとめたいと考えている。 上述のとおり最終年度は全期間イタリアに滞在していたため、日本での公表業績は少ないが、本研究の最終的な研究成果を基礎にした判例評釈を1本公表することができた。 研究期間全体を通じては、当初の研究目標を相当程度達成し得たと言える。その目標とは、実行の着手論に関する基礎理論を日本法の沿革及び比較法の観点から改めて見直したうえで、その成果として得られた未遂観をもとに実行の着手の判断基準を具体的に提案することであった。研究期間内には、実際にこの計画に沿った形で順に考察を進めていき、最後の実行の着手の判断基準論までたどり着いたうえで、その全考察過程を公表することもできた。具体的には、「実行の着手論の再検討(1)~(6・完)」法学協会雑誌136巻1号、3号、7号、9号、137巻8号、138巻10号及び「不能犯論と実行の着手論」刑法雑誌61巻1号がこれに該当する。上述のとおり、成果の国際的な発信には課題が残ったが、国内的にはこれらの業績の公表を以て本研究の目標を相当程度達したものと考えている。
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