本研究開始当時は未遂犯論では次の理解が通説であった。未遂犯は既遂に至らなかったがその危険性があった場合を処罰対象とする。それゆえ、危険発生時点で処罰可能、危険が発生し得なかった場合は処罰不能である。前者を扱うのが実行の着手論、後者を扱うのが不能犯論で、両者は実質的に同一の議論である。 本研究は、実行の着手論と不能犯論の相互関係に関する上記の通説に疑問を持ち、歴史研究を踏まえた理論的考察によって、①両者が根本的に異なる議論であることを明らかにした。そのうえで、②実行の着手論は危険性の問題ではなく、規範違反性の問題であるとの理解を提示した。③その理解の下で、実行の着手に関する判断基準に検討を加えた。
|