研究課題/領域番号 |
18K12666
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
芥川 正洋 東北大学, 法学研究科, 助教 (40639316)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 強盗罪 / 強盗殺人罪 / 強盗致死傷罪 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、強盗関連罪の処罰根拠までさかのぼり、その成立範囲を明確化するものである。2020年度は、強盗殺人罪(刑法240条)について研究に着手し、おおむねの結論を得られた。 強盗殺人罪は、従来、その成立範囲をめぐって、手段説と機会説の立場の対立があるとされてきた。しかし、ドイツにおける強盗致死罪(ドイツ刑法典251条)の判例状況を分析することを通じて、両説の対立は相対化することができることが明らかになった。 ドイツ刑法の強盗致死罪は、わが国では手段説を採用した立法例と紹介されているが、そのような立法の実質的理由は、「強盗特有の危険」は手段行為(財物奪取の手段となる暴行・脅迫)にのみ認められるというところに求められる。しかし、このような立法理解にもかかわらず、近時のBGH判例の展開を見ると、わが国で言うところの機会説に近い解決が導かれている。その際、BGHが示すのは、同様に「強盗特有の危険」である。 ドイツの判例の展開は、まさに機会説と手段説を相対化するものである。 そこで、本研究は、まず、ドイツの判例・学説が示めす「強盗特有の危険」を、わが国の強盗殺人罪の成立範囲をめぐる解釈にも導入すべく検討を行った。わが国の手段説も機会説も「強盗の危険」を問題にする点では、通底するものが認められ、それゆえ、この「強盗の危険」をいかなる範囲で認めるかが、真の論争点であることが明らかとなった。そして、この強盗殺人罪の成立範囲を画する「強盗の危険」を、これまでの本研究課題で得られた、強盗罪や事後強盗罪の研究成果と接合する形で検討を行った。結論として、「強盗の危険」とは、自由侵害に伴う、被侵害者からの強力な反発によって基礎付けられることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
強盗殺人罪の研究成果については、2020年9月に開催(オンライン)した早稲田刑事法学研究会で報告し、その議論の成果を取り込み、さらなる研究の深化につとめているが、2020年度中に、成果を公表するまでに至らなかった。そのため、研究期間を延長し、研究を進める必要が生じた。 また、強盗殺人罪については、一定の成果を得られたものの、研究対象としてまずは強盗犯人による故意行為による致死傷結果の惹起を先行させたところ、予想外にも過失行為の場合について別個の考察が必要であることが明らかになった。当初の予定では、故意行為による結果惹起と過失行為による結果惹起は量刑問題に過ぎず、構成要件解釈では考慮する必要はないと見込んでいたが、後者の場合には独自の考慮が必要になるため、この点について、研究対象をより広げる必要が生じた。 強盗殺人罪については一定の成果を得られたものの、その成果が妥当する範囲に見込み違いが生じたため、やや遅れていると言わざるを得ない。
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今後の研究の推進方策 |
すでに強盗罪・事後強盗罪については、一定の研究成果を上げているので、これらの課題については、解決済みと考えている。 強盗罪の総合的研究を完遂するためには、強盗殺人罪・強盗致死罪が最後の課題となるが、【現在までの進捗状況】で記したように、強盗犯人の故意行為による結果惹起と過失行為による結果惹起の場合では、研究方法を異ならしめる必要があると考えられるため、双方を解決するためには、研究期間が不足すると考えられる。そこで、本研究課題では、強盗殺人罪に研究の対象を限定することにする。 その理由は、一方で、強盗致死傷罪は、結果的加重犯の1つとされており、結果的加重犯にかかわる既存の議論を応用することにより、ある程度は解決可能であるのに対し、他方で、強盗殺人罪は、強盗行為に固有の処罰加重構成要件であり、それゆえ、「強盗罪の総合的研究」を展開する本研究課題において、一定の解決を示す必要がある。また、強盗殺人罪は、量刑において強盗致死傷罪よりも重い処罰が科される犯罪類型であり、その処罰範囲の明確化は、社会への貢献も大きいと考えられるからである。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では、海外での調査・研究を予定していたが、コロナウィルス感染症流行のため、これを取りやめ、国内(・県内)で入手可能な資料による調査研究に振り替えることにした。そのため、海外渡航費の支出がなくった。また、国内開催の研究会に出席するために、国内旅費も計上していたが、同様の理由のため、出張が困難になり、また、研究会もオンライン開催に移行したため、国内旅費の支出がなくなった。 これらの影響による研究の遅延を回復するため、精力的に資料収集を行ったため、物品費(主として、書籍購入費)が多額に上ったが、すでにこれまでの研究期間での蓄積も少なくないため、物品費の支出が、予定していた旅費予算を下回ったため、次年度使用額が生じた。
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