本研究は、共犯の成否をより実質的に判断可能な従属性原理の確立を目的として、ドイツ法(2018年度)およびオーストリア法(2019年度)における共犯の従属性の議論状況について調査を行ってきた。最終年度である本年度は、それらの調査を踏まえて、研究の取りまとめとして、私見の提示および判例分析を行い、研究成果の公表を行った。 まず、違法性の連帯性については、正犯者に正当化事由が認められる場合に共犯者も適法とされる実質的な根拠は、共犯者は正犯者が実現した法益侵害(結果無価値)だけでなくそれを優越する法益保全結果(結果有価値)についても因果性を有する点にあるとしてきた私見に対してさらなる理論的基礎づけを与えるために、共犯の従属性の観点に加えて、正当防衛や中止犯の観点も踏まえて、構成要件段階だけでなく違法性阻却段階においても行為と結果(法益保全結果、結果有価値)との間の因果性が必要となるということを明らかにした。さらに、こうした分析は、結果帰属という観点から様々な正当化事由の分析に応用できるとともに、刑法における結果帰属原理をさらに進化させうるものであることを示した。 また、共犯者間における罪名の一致の要否を問題とする「罪名従属性」の問題については、従来の多数説が、狭義の共犯については二次的責任類型性の観点から、共同正犯についてはいわゆる部分的犯罪共同説の立場からこれを必要としてきたのに対して、特に共同正犯についてはこれを必要とすべき理論的根拠および実務上の意義が乏しいことを明らかにした。従来、判例も、最決平成17年7月4日刑集59巻6号403頁においては部分的犯罪共同説に親和的な判断を行ってきたが、近時の最決令和2年8月24日刑集74巻5号517頁においては部分的犯罪共同説から一定の距離をとるような判断を行っており、本研究の方向性と親和性があるといえる。
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