近年、生産者と食品メーカー等とが農産物の直接取引を行う「契約栽培」ないし「契約農産(Contract Farming)」が、国内外で注目を集めている。契約農産においては、あらかじめ品目・品質・数量・価格等の条件を決めて取引を行うため、双方が提供先ないし供給先を安定して確保できるというメリットがある。一方で、生産者は相手方のニーズに合わせて設備投資する等して生産を行うため、後から受注量を減らされたり価格を下げるよう求められたりした場合にこれに従わざるを得ない立場に陥ることがある。 こうした契約農産の取引環境を整備するため、国際機関による法的文書の公表が相次いでいる。代表的なものが、私法統一国際協会(UNIDROIT)による「契約農産に関するリーガルガイド」(2015年)である。 本研究は、契約農産の内包する法的課題を指摘し、安定的かつ継続的な農産物の取引環境形成に資する契約法理論のあり方を模索するものである。本年度はUNIDROIT本部及び図書館をvisiting researcherとして訪れ、契約農産に関する上記文書や実際の契約書を調査し、文書作成に携わった関係者へのインタビューを行った。 以上の作業により、契約農産の法的課題として(1)悪天候や市場価格の変動等の農産物特有のリスク、(2)大規模アグリビジネスの農業支配による当事者間の交渉力の不均衡、(3)一定の設備投資を前提とした取引における契約への依存、の3点を指摘した。また、これらの課題を内包する契約農産において、当事者による事前的なリスク配分を推奨するソフトローによる解決に限界があることを指摘した。 本研究の最終成果「農産物の直接取引にかかわる契約法的課題―契約農産に関するUNIDROIT/FAO/IFADリーガルガイドを手がかりとして」は、2020年刊行予定の国際商取引学会年報22号において公表される予定である。
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