研究課題/領域番号 |
18K12676
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
吉原 知志 香川大学, 法学部, 准教授 (70805308)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 民法改正 / 弁済による代位 / 不動産登記法 / 権利能力のない社団 / 区分所有法 / マンション建替え / 財産権 |
研究実績の概要 |
平成31年度は、民法改正に伴う関連規律の改正点の調査の他、民法附属法である不動産登記法、建物の区分所有等に関する法律(以下、区分所有法)の側面の調査に取り組んだ。 民法改正については、共有に直接に関連する、多数当事者の債権債務関係についての改正点を追うだけでなく、連帯債務の規律と深く関連する弁済による代位についての改正調査を行った。同調査は「改正民法における法定代位権者間の負担調整」と題する論考にまとめ公表した。以上の規律は、共有関係から生ずる訴訟法律関係の規律の形成にあたって常に参照されてきたものであり、本年度の研究は以後の調査の基盤をなす。 不動産登記法の分野では、権利能力のない社団の不動産登記法上の地位について考察を行った。社団は共有関係と隣接する法形象であり、登記法と社団の関係を明確にすることは、共有関係を考察するための前提問題となる。本研究の結果、社団代表者名義の不動産登記の権利推認力の弱さから導かれる社団の内部関係の解釈深化の必要性、さらに、社団の行使する登記請求権を他の請求権から特別視する可能性について明らかにした。これを基礎に、社団の法主体としての性質と、登記法上追求される法的地位、請求とを関連付ける解釈を行った。次年度は、以上の成果を土台として共有関係の解釈作業に踏み込んでいく予定である。 最後に、共有関係、区分所有関係が有する財産権としての実質について研究を行った。具体的には、区分所有建物(マンション)の建替え等法制を公法的側面を主軸に据えて概観し、批判的に検討することで、区分所有権や敷地共有権が私人に割り当てられた私的権利として貫徹されていない有様を示した。この研究は、私的権利の追求方法に関する従前の関心からは視点を変えて、そもそも共有関係上の権利が保障される根拠を再考するものである。本研究の成果は、さらに調査を進めた上で、令和2年度の公表を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成31年度は、本研究課題の解明にあたって前提となる周辺的な問題に取り組むことができた。民法改正による関連規律の改正点の検討は、改正による目先の変更点の洗い出しにとどまらず、制度の基礎に遡る機会となった。さらに、不動産登記法上の権利義務関係の調査は、本研究課題を遂行していく上での不可欠の基礎となった。なぜなら、共有関係上の裁判例は、共有物の帰属・利用を争う通常の物権的請求権に関わる事例だけでなく、登記名義をめぐる紛争の事例が多く含まれ、後者もまた判例法理の形成に大きく寄与していると見られるからである。本年度は権利能力のない社団に即して不動産登記法上の基礎的概念の解明に取り組んだ。これが今後の裁判例分析の土台となることは間違いない。以上の成果は、本研究課題の核心に展開していくための基盤となる。 これに対し、マンション建替え等法制に関する研究は、今後、本研究課題にさらなる広がりをもたらすだけに、本研究課題の進行をやや鈍化させる要因でもある。本研究課題の当初の想定は、私人に内容の確定した私的権利が割り当てられている状況を前提に、当該私的権利の内実を明らかにする行程を踏むものであったのに対し、上記の研究は公法上の財産権が公的機関によって内容を形成されていく過程に着目したものに当たる。このように大きく視点を変えた展開は、本研究課題の遂行上は明示的に取り込まない方が賢明であるように思われる。しかし、本研究課題には、一方、私法上の概念の基礎的探究の意義があると同時に、他方、将来の関連する制度形成の資料提供の意義も含まれる。このような観点から、本研究課題の遂行においても権利の公法的・制度形成的側面の検討を可能な限り取り入れていくことを予定している。このように展開領域を拡大したとしても、従前の進行状況から概ね変更はないと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
従前の研究進行状況から、今後の研究課題は、①共有関係規律の法史学的探究、②共有関係の裁判例分析、③共有関係の公法的・制度的側面の研究、に整理できる。しかし、以上の各課題に総花的に取り組むことは、それぞれ取り組む作業の性質が大きく異なり、効率性を大きく損なうことが予想される。そこで、今後の方針として、以上の3つの課題に順位付けを施した上で進めていく。まず、③の課題を一定の水準まで進めて研究成果の公表につなげた上で、順次、①、②の課題に移っていきたい。③の課題を優先して取り組む理由は、③の課題は財産権の考察が私法的側面の研究だけでは完結せず、公法的側面も見なければ全体像が見えてこないとの観点に立っており、私権の追求方法を考察する本研究課題にもたらす示唆が大きいこと、同課題の遂行上公法学研究者との研究協力を予定しており、次年度の共同研究から大きな成果が見込めること、である。後者については、次年度に予定している共同研究の業績公表を重視している。ただし、①、②の課題も全く劣後させて取り組むのではなく、③の課題遂行を主軸としつつも並行して取り組んでいく予定である。 以上の行程に対しては、新型コロナウィルスの蔓延に伴う進行速度の鈍化が予想される。とりわけ、上記③の課題遂行のために必要な関係研究者、実務家との研究交流の機会が現時点でも既に延期・中止が相次いでいる。さらに、本研究課題で当初予定していた外国の機関での資料調査については、渡航の制限からも実施の見通しが立たない。予算の執行計画として出張費の支出抑制から変更を余儀なくされており、現時点で既に研究課題の期間延長申請を視野に入れている。今後の本研究課題の遂行については、新型コロナウィルスの動向を窺いながら臨機応変に判断していく。
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