最終年度は、マンション法を中心に不動産に関わる私法関係を公法的観点を交えて捉え直す作業に従事した。本研究課題の観点からは、成果は2つに分類できる。1つは、マンションが地域空間に置かれた存在であることを踏まえ、私人の集団である管理組合の公的側面について問題提起を行ったことである。2つは、管理組合の中核的な運営方法である決議制度について、瑕疵ある決議の効力を争う方法について、ドイツ法を比較対象とした考察を行ったことである。後者は、ドイツ法で「決議訴訟」と称される特殊な集約的争訟システムが発達していることを明らかにし、区分所有関係という特殊な題材ではあるが、共同所有関係を基礎とした団体法を考察する際の1つのモデルを提供できたと考える。この成果は「関西民事訴訟法研究会」で報告し、民事訴訟法の研究者から意見を得ることができた。 研究期間を通じて、当初は区分所有、共有を通じた基礎理論の解明を計画として掲げ、区分所有法上の団体関係における実体法と訴訟法の交錯関係の解明、共有の伝統的分類方法に対する疑問提示、権利能力のない社団理論を背後で枠付ける登記法の要素の解明などの作業に従事し、それぞれ考察結果を論文として公表した。その後、マンション法研究について公法研究者の協力が得られるようになり、区分所有、共有関係を、私法関係に限定せず公法関係も含めた法体系全体の中でどう捉えるか、そして憲法学の制度形成論の文脈に載せることで、望ましい制度設計のあり方に関心を移した。区分所有、共有に関する制度設計論は、折しも、所有者不明土地問題の深刻化、老朽建物の増加など、管理の行き届かない不動産が社会問題化し、重要な法改正が相次いでおり、社会的需要とも合致するものだったと考える。当初の計画でもシェアハウスや空き家問題など現代的課題を法理論的に考察する視点を示したが、以上の形で当初の計画に沿う一定の成果を得た。
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