本年度は,前年度までの研究成果(売買・請負・贈与における契約不適合責任)の全体像の整理を行うとともに,主として,契約類型を踏まえた「契約不適合」の判断構造について分析・検討を行った。 具体的には,2017年の改正前民法の瑕疵担保責任における「瑕疵」に関する判例法理の検討を通じて,「瑕疵」の判断構造を整理・分析するとともに,改正民法の立法資料を手がかりとしながら,そうした「瑕疵」の判断構造が,改正民法における「契約不適合」の判断構造にどのようにして承継されたのかを明らかにした。そこでは,改正前民法における「瑕疵」の判断基準が一定の契約類型と結びついた典型的基準とそこから離れる個別的基準によって重層的に把握されるものであること,そのような「瑕疵」の判断基準・判断構造が,改正民法における「契約不適合」にも概ね承継されたと考えられることを明らかにした。 研究期間全体を通じて,本研究は,売買における売主の契約不適合責任を中心としながら,ドイツ法等との比較法的研究も踏まえて,①契約不適合の判断基準や判断基準時,②契約不適合に対する救済手段としての追完請求権や追完に代わる損害賠償請求権の要件や規律内容を検討し,改正民法における契約不適合責任の規律の解釈指針を提示した。また,請負における契約不適合責任や贈与における契約不適合責任の規律についても,売買における契約不適合責任の規律と比較しながら,その特徴を明らかにし,契約類型に応じた契約不適合責任の規律内容の共通点と相違点を一定の範囲で示すことができた。
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