2022年度も、前年度に引き続き、資本市場法制全体を視野に入れながら社債法制の研究を続けた。とりわけ、社債の交換募集において問題となりうる、発行開示規制・公開買付規制の諸問題について、理論的な検討を進めた。この点は2023年度~2024年度に順次成果を公表していきたいと考えている。また、法的倒産手続外での倒産処理(私的整理)のあり方に関する研究も進めており、近々その成果の一部を公表することができる見込みである。さらに、社債権者集会と同様の資本多数決による意思決定の仕組みである株主総会についても研究を進めており、2022年度は「株主総会における議決権行使に関する問題点の検討――書面投票・電子投票と「出席」・委任状勧誘に関する論点整理」と題する論文を公表することができた。この点についても、引き続き検討を進める予定である。
研究期間全体を通じて、次のような成果をあげることができた。第一は、多数の権利者の意思決定のあり方に関する理論的な検討の深化である。本研究より、社債権者集会という制度の合理性とその限界を一定程度明らかにすることができたが、それにより、資本多数決による意思決定一般に関する理論的な問題の分析に貢献することができたと考えている。第二は、事業再生の局面における交渉のあり方に着目した議論の深化である。本研究により、社債管理者・社債管理補助者の制度に関する分析を行ったが、それにより、金融契約一般におけるコベナンツの意義やその管理のあり方についての理論的な分析に貢献することができたと考えている。新型コロナウィルスの感染拡大により、必ずしも当初予定していた形で研究を遂行できたわけではないものの、そのような制約条件の下でできるかぎりの成果をあげることができたのではないかと考えている。
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