本研究は、日本法の下での差押え及び差押債権者の実体法における位置づけを探るために、ドイツにおける差押え及び差押債権者をめぐる議論を検討しようとするものである。2021年度においては、主としてドイツ民法典成立後における議論の展開について検討を進めた。とりわけドイツ民法典成立後における差押えと相殺に関する議論を跡づけることを行った。 ドイツ民法典392条は、自働債権が差押え後に取得されたものである場合、または自働債権が差押え前に取得されたものであっても、その弁済期が差押え後かつ被差押債権である受働債権の弁済期よりも後に到来した場合の第三債務者のする相殺を禁止する。この規律をめぐっては、債務者の関与しない事由によって、債務者の法的地位が悪化させられるべきではないとの評価を基礎に議論がなされた。そして、自働債権の取得時期についての、差押え後に取得された、差押え前に「法的基礎」を有する自働債権による相殺の許容により、規定の文言からの緩和が許容されている。ここには、民法制定前における、継続的な取引関係を前提とするような、相互の債権債務による決済による取引の円滑化とその保護としての担保的機能のつながりをみることができる。
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