研究課題/領域番号 |
18K12682
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
浅野 雄太 九州大学, 法学研究院, 准教授 (40768131)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 倒産 / 破産 / 自由財産 / 固定主義 / アメリカ法 / 立法史 |
研究実績の概要 |
平成31年度は、主に日本の破産法において膨張主義から固定主義に至るまでの立法上の変遷と自由財産拡張制度の実務上の運用を軸に、文献の購入及び主に大阪の研究会での実務家へのインタビューを行った。 立法史については、科研費により松岡正義「破産法講義 完」(明治大学出版部・1903年、復刻・2003年)など、明治期に出版された貴重な文献を購入した。また、同じく大正期の旧破産法の改正時の衆議院・貴族院での議論が記載された『破産法改正精義』について、九州大学図書館には所蔵されていないことから、大阪市立大学図書館に文献複写に赴いている。またそれと同時に、大阪で開催されており、弁護士等の実務家も出席する日本民事訴訟法学会関西支部などの研究会にも参加し、本研究に関する実務家の貴重な意見を伺うことができた。 以上の文献調査、九州大学所蔵の文献、その他インターネットを通じた資料の収集等により、立法史から見た固定主義の現代的意義について明らかにする端緒を得たと考える。すなわち、現在の学説では、固定主義の意義について債務者の生活保障に焦点を当てて論じられることが多い。しかし、明治から大正に至るまでの破産法の立法及び改正時の議論を見ると、以上の点に焦点を当てることは不適切と思われる。破産財団と債務者の生活保障との関係については、1902年に公表された破産法案において、破産財団には破産手続開始後に破産者が勤労により取得した財産を含めないという形ですでに立法的解決が果たされているのではないか、ということが明らかになった。そして、固定主義が立法的に導入された経緯にかんがみると、固定主義と膨張主義の対立軸は、破産者が勤労により取得した財産ではなく、相続などで破産者が偶然取得する財産をいかに扱うかという点に集約されるのではないか、という仮説を持つにいたる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」の項でも述べた通り、平成31年度は、明治期の破産法立法時の議論から破産法案の内容、そして大正期の旧破産法立法時の議論を、各種文献を通じて研究を行った。それにより、固定主義の意義を検討するに際しては、破産者が勤労により取得した財産ではなく、相続などにより破産者が偶発的に取得した財産に軸を当てて検討をすべきではないか、という仮説を持つに至った。 以上の私見については、現在執筆中の論文で明らかにする予定である。現状では日本の立法史に関する文献を一通り調査したうえで適宜文書化しており、、論文の完成度としては7~8割の状況である。今後、現在の日本法への示唆、すなわち免責等、明治・大正期には存在しなかった制度を踏まえたうえで固定主義の現代的意義について改めて検討をする必要があるのではないか、ということを加えたうえで論文として発表することを予定している。論文については、九州大学で公刊している「法政研究」に掲載依頼を出すことを検討している。 研究計画における当初の予定では、平成31年度末から平成32年度前半にかけて、日本の立法史を踏まえたうえでの固定主義の意義についてまとめた論文を公刊する予定であったが、申請者の時間的リソースが授業ないし判例評釈などに割かれた結果、当初の予定と比べ遅延がみられる。 もっとも、上記の通り以上の私見についてまとめた論文については7~8割方の完成がみられる。したがって、本研究はおおむね順調に推移していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の方針としては、現在執筆中の論文をまとめたうえで、主にアメリカ連邦倒産法を、以下の2つの観点から研究することを予定してる。 第一に、アメリカ法における、破産者が破産手続開始後に偶発的に取得した財産の扱いについてである。研究実績の概要でも述べた通り、固定主義の意義を議論するに際しては、相続などで偶発的に破産者が取得した財産をどのように扱うかに焦点を当てるべきと考える。そこでアメリカ法を見ると、日本と同じ固定主義を採用しながら、破産手続開始後6か月以内に相続等で取得した財産は破産財団に含めるとされている(541条(a)(5))。なぜ連邦倒産法がこのような考えを採用しているかについて研究のうえで、日本法への示唆がないかを検討する必要がある。 第二に、破産財団に帰属すべき財産の程度、すなわち破産した破産者にはどの程度の財産が残されるべきであるのか、という点である。破産財団の範囲についての検討は、破産者にどの程度の財産を残すべきか、という議論につながる。この点アメリカ法では、破産者が過度の財産を保持したうえで破産手続を開始することを嫌い、2005年の連邦倒産法改正により、一定以上の資力を有する債務者については、日本の破産法に相当するチャプター7ではなく民事再生に相当するチャプター13を使用するよう誘導している。なぜアメリカでこのような見解が採用されるに至ったのか、また、具体的にどの程度の財産以下であればチャプター7が奨励されるのかについての研究を予定している。 主に以上の2点をまとめたうえで、やはり法政研究等を通じて論文として公表することを予定している。
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