研究課題/領域番号 |
18K12689
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
喜友名 菜織 早稲田大学, 法学学術院, 助手 (30780035)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 特別養子縁組 / 児童福祉 / 縁組同意 / 同意補充 / 内密出産 / 少年局 / ドイツ |
研究実績の概要 |
本研究は、児童福祉制度の一つとされる「特別養子縁組制度」を対象とするものであり、①同制度の理論面・実践面における諸課題を明らかにし、②これら諸課題への対応についてドイツでの実地調査を通じて知見を得た上で、③子の利益ないし子の福祉に根差した適正かつ円滑な運用の在り方およびわが国の未成年養子制度の今後の展望を探求することを、目的としている。 2018年度前半は、上記①に取り組むことにし、要保護児童の養育に適した養親候補者が存在するにもかかわらず実親が縁組への同意を表明しないという葛藤事案に主眼を置き、日独における断絶型の未成年養子制度の利用状況についてそれぞれ整理・分析を行った。両国の比較検討を通じて、わが国の特別養子制度が抱えてきた数ある諸課題のうち、円滑な利用を実現させるという観点からは、児童福祉制度としての位置付けの不鮮明性、および縁組の成否に係る審判基準の不明確性という二つの問題への対応が迫られていることを確認した。 2018年度後半は、制度設計の修正ないし運用の是正が特別養子制度の喫緊の課題とされていることに鑑み、改革の方向性を見定める必要性から、上記②に着手した。拠点をドイツのマールブルクおよびゲッティンゲンに置き、葛藤事案への対処および同意補充制度の運用実態について、当該分野を専門とする研究者から情報を収集するとともに、少年局の里親・養子縁組斡旋部門の担当者にヒアリング調査を行った。これらの実地調査を通じて、ドイツの斡旋実務上、里親制度からの接続の当否および縁組成立の可否を決定付けているのは、断絶という法的効果と密接不可分の関係にある実親の縁組同意の存否であるということを確認できた。また、上記③との関連では、内密出産制度の実施状況も踏まえた上で、実親の意思決定支援および同意取得に係る手続保障が、断絶型の他児養育制度の適正かつ円滑な運用の基盤を成すという視座を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画との相違については、専ら国内法制の点から、次の三つを挙げることができる。第一に、当初の研究計画では、ドイツの未成年養子制度との比較研究で得られた視座をもとに、2016年以降急速に展開されている特別養子制度の改革を巡る議論に対して、一定の方針を打ち出すことも予定していた。しかし、すでに2019年1月に、法制審議会において「特別養子制度の見直しに関する要綱案」が決定されるに至っており、これにより、改革に向けた方向性の提示という短期目標は頓挫した。第二に、上記要綱案が原案通りに採択された場合には、本研究が着目していた特別養子制度に関する諸課題のうち、児童福祉制度としての位置付けの不鮮明性、および円滑な利用促進という観点からの制度修正の要請の二点については、民法等の一部改正を以って解消され得るものと予想される。第三に、養育目的の強化、救済対象の拡大、および円滑な利用促進を掲げる此度の法改正が早期に実現される場合を想定し、新たに、上記要綱案が決定されるに至るまでの審議内容を精査し、かつ、改正法施行後の利用状況の量的・質的な変化について見通しを立てる必要性が生じた。 以上のように、本研究の遂行過程で、特別養子制度の改革議論の終結に伴い、比較対象や検討内容に変更がもたらされたことは確かであるが、要綱案に見る制度設計それ自体は、ドイツにおける運用の骨子と多くの類似点を有していることを指摘できる。それゆえ、ドイツの未成年養子制度との比較を通じて、子の利益を謳う制度理念の実質化および断絶効を伴う養育制度の今後の発展可能性について検討していくという、本研究の当初の目標および手法に大きな影響を及ぼすものではないと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
断絶型の未成年養子制度の運用を巡り、わが国の特別養子制度については、その導入以来、子が実親から養親に託されるまでの一連のプロセスにおける支援体制の整備・充実化が往年の課題とされ、また、ドイツの議論においては、養育実績に基づく事実上の親子関係の尊重と実親子関係の断絶の回避とを両立し得る解釈またはそのような法制度の構築が模索されている。このことを踏まえ、今後、本研究では、あっせん体制の脆弱性および断絶効に起因する利用低迷という問題に主眼を置き、適正性の確保された運用の在り方および未成年養子制度の選択が縁組当事者間に調和的解決をもたらす運用の在り方について検討を進めていきたい。 2019年度前半は、2018年度の成果報告に充てることにし、実親側の意思決定支援および同意取得に係る手続保障の重要性について提言する。これと並行して、縁組の成否に係る審判基準の不明確性という問題を考察すべく、ドイツにおける葛藤事案ないし同意補充に係る裁判官の法的評価や子の意思の取扱いに関する裁判実務の内実を調査することも予定しているが、現時点において家庭裁判所との協力は得られていない。2019年度後半は、都市部の妊娠相談所や民間の養子縁組斡旋機関を訪問する等して、実母の意向確認、養子となる者の意思の取扱い、実父の手続保障およびオープンアドプションを巡る現時点での課題や今後直面することが予想される問題について、専門的見地に基づく意見聴取を行うことを予定している。
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