2022年度は、日独の未成年養子制度、社会的養護、人工妊娠中絶および内密出産制度に関する文献収集や裁判例の整理を行うことに注力した。それとともに、わが国の普通養子制度においては、成年者・未成年者にかかわりなく、財産的利益の享受を動機とした養子縁組の利用が許容されている慣行・実態があることから、縁組意思ないし養親子になる意思の具体的内容という観点からの検討を行った。未成年養子制度の本旨に照らすと、子の養育という目的に主眼が置かれるべきであり、現行の普通養子制度の規定ないし運用は見直される必要がある。以上のことから、孫養子や連れ子養子に関するこれまでの改正議論の状況や利用実態調査の整理・分析に着手した。 本研究は、ドイツ完全養子制度の理論・実務の特色から、日本法の課題について明らかにすることを目的としている。研究の全体的な成果として、次のような視座が得られた。第一に、ドイツでは、実親の縁組同意権が憲法上保障されていることから、実親の意向が縁組の成否を判断する基準となっており、実親の意向を確認し同意を取得するまでの手続が整序されていること、実親の意に反してでも子を保護する制度としては最終的な選択肢として位置付けられているということである。第二に、望まない妊娠をした場合であっても、実母は養子縁組という決断に対して高い葛藤を抱えており、それと同時に、血縁上の父の手続保障に関する課題が残されている。第三に、2021年施行の養子縁組支援法により、養子縁組前後におよぶ支援が一層強化された。以上のことから、「子のための養子法」の実現にあたっては、縁組前の相談・付添い支援を運用の基盤とすること、養子縁組に関わる当事者間の葛藤・対立の緩和も重要であり、縁組成立後の実親子の交流支援がその一助となり得ること、何よりも出自を知る子の権利の保障に関する議論が不可欠であるという結論が得られた。
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