研究課題/領域番号 |
18K12690
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
原 弘明 関西大学, 法学部, 教授 (70546720)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 報酬 / 取締役 / 判例分析 / 瑕疵連鎖説 |
研究実績の概要 |
本年度も、主として日本国内の裁判例分析を中心に、取締役報酬の現状を検討した。また、問題意識を拡張し、取締役の解任時の損害賠償請求も分析の対象とするため、取締役の選解任が関連する判例も検討した。 具体的には、原(2020)では、取締役報酬に関する裁判例を分析した。取締役報酬に関する裁判例は雑誌体では未公刊となっているものが多いため、本稿ではWestlawJapanに独自に収録された、会社法施行後の裁判例のうち、関連性の薄いものを除外した88件を検討したものである。全般に株主総会決議のない報酬支払請求に関して裁判所は消極的であった。このことは会社法361条がお手盛りの弊害防止を主目的としている以上合理的であると考える。他方、決議機関への付議義務違反を問題とした裁判例には、請求を肯定するものも垣間見られた。減額・不支給については取締役の予測可能性を重視していると思われ、過去の判例と整合的である。株主総会決議に代わる同意については判断のバラツキがみられ、裁判例の不安定さがみられた。 原(2021)では、事業協同組合の理事選挙の瑕疵を争う訴えが問題となった、最判令和2年9月3日を評釈した。事業協同組合法は会社法の株主総会決議の瑕疵を争う訴えの規定を準用しており、会社法の先例として意義がある。リーディングケースとされる最判昭和45年4月2日は取締役選任にかかる株主総会決議の取消請求訴訟の係属中に当該選任された取締役が退任し新たに取締役が選任された場合には、原則として訴えの利益が失われるとしていたが、最判平成2年4月17日・最判平成11年3月25日が例外を認めていた。最判令和2年は、先行訴訟が理事選挙の取消しにかかる訴えである場合にも、過去の例外と同様、いわゆる瑕疵連鎖説を採用したものとして重要であり、研究代表者もその結論・理由付けを支持した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍により出張を予定していた研究会報告や海外の文献入手・調査が十分に進んでいない。本研究については1年間研究期間の延長を申請し認められており、現時点で既に最終校正中の研究成果も存在する。残りの1年間において、可能な限り多くの研究実績を積み重ねることとしたい。
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今後の研究の推進方策 |
【現在までの進捗状況】にも示した通り、主として全体の総括とその前提となる外国の比較制度研究が若干遅れている。他方で、日本法の現状分析については当初契約より順調に進んでいるため、比較制度研究を集中的に進め、総括につなげることとする。研究会報告等についてはオンライン開催により地理的な障害が克服されている面もあるので、今年度も積極的に報告機会を得ることとしたい。また、洋書の入手については今年度も時間がかかることが予測されるため、できるだけ早期に必要な発注を済ませ、十分な検討時間が確保できるように努めるなど、withコロナの状況においても必要な研究ができる工夫を行うこととする。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により実地参加を予定していた学会・研究会出張がゼロになったことと、図書のうち主として洋書の入手に時間がかかったことによる。今年度も前者はほとんどの場合オンライン開催が見込まれるため、旅費相当額については消耗品購入に充てることとし、洋書は発注を早期に確定させることとしたい。
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