研究課題/領域番号 |
18K12695
|
研究機関 | 駿河台大学 |
研究代表者 |
清水 知佳 駿河台大学, 法学部, 准教授 (10585243)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 原子力 / 地方自治 |
研究実績の概要 |
原子力への依存に対する消極的な姿勢は世界各国で強まっているといえる。そのなかでも、とりわけ米国は経済的な理由を掲げ、全米の原子力施設を次々と廃炉にしている。そこで、本年度は、前年度に行った先行研究の整理を前提として、米国San Luis Obispoに在するDiablo原子力発電所を訪れ、立地市町村の権限を中心としてインタビュー調査を行った。 San Luis Obispo市原子力安全担当職員、原子力事業者、市民団体を一同に会して、原子力行政の課題について議論することができた。Diablo原発は既に廃炉が決定しているのであるが、安全な廃炉作業や避難計画をめぐり上記3者が意見を異にしていたため、本研究にとって非常に有益な示唆を得ることができた。廃炉作業の監督業務であるが、基本的に連邦政府NRCが主導となって各種方針の策定や立入調査等を行っていることが明らかとなった。それに対する市の役割としては、災害発生時における避難計画の策定が主となり、安全規制におけるNRCとの協働は限定されているようであった。そして、市は自身の能力との関係からそれ以上の権限拡大を求めていなかったが、これは日本の立地市町村と共通していたといえる。また、避難時における高速道路の渋滞予測などにおいて3者の意見が対立しているようであった。本研究の最も大きな成果は、同市が、廃炉委員会という一般市民で構成された委員会を媒介として、NRC、事業者、市、市民間で情報を共有し、政策になるべく多くの意見を反映させる制度を分析した点である。本調査ではその構成員にインタビューし、委員会が意見を形成し、NRC、市、事業者に対してその意見を表明するプロセスなどを明らかにすることができた。 また、ハワイ大学では教授陣に対してインタビューを行い、同州がクリーンエネルギーを推進する州として躍進した背景を明らかにすることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの先行研究をまとめると、米国NRCの策定する資料や裁判例を分析するものがほとんどであるため、本年度の調査のように、実際に立地自治体に赴き、自治体職員、事業者、市民団体が一堂に会して、原子力行政の課題について議論することができたのは非常に有意義であった。前年度の資料分析に本件実地調査を加えた論文を現在執筆中である。その中で、日本とは大きく異なる廃炉委員会という独立機関の存在を紹介しているが、市民が媒介となって政府間をつなぐ、という同委員会の新しいスタイルは、日本法への有益な示唆となると考えている。 伊方原発を中心に、原発の再稼働をめぐる司法の判断についても論文を発表することができた。そのなかで、原発の安全性とはなにをもって定義するのか、という問いに対するこれまでの裁判所の見解を整理することができたと思われる。今後の裁判例についても注目していきたい。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでの研究で訪れることができなかった茨城東海村原発を中心に調査していきたい。東海村原発を研究してきた研究者とは既に研究計画について意見交換を行っており、今後もさまざまなアドバイスを頂く予定である。なお、同市は原発に関する研究を積極的に支援しており、また、原発を導入した背景を丁寧に説明している数少ない自治体であるため、本研究には欠かせない存在であると考えられる。 最終年度を迎えるため、これまでの研究を総括した論文の執筆を積極的に行っていきたい。これまでの調査においてご協力を得られた自治体の原子力安全部署担当職員の皆様とは調査後においてもメールにおける意見交換を行っているが、コロナの影響下では、こうした連絡手段を引き続き行っていく必要があると思われる。 なお、既に人間環境法政策研究会での報告が予定されているが、コロナの影響により、変更の可能性があるとされる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
初年度において所属大学の移籍などによって研究活動がやや進まなかったために執行率が低くなり、本年度において積極的な研究活動を行っても、前年度の執行率が影響し、本年度の予算をすべて執行することができなかった。次年度においては、最終年度であるため、研究成果の公表に要する費用(学会発表旅費、学会参加費、製本費等)を中心として、計画的に使用させていただきたいと考えている。
|