研究課題/領域番号 |
18K12695
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研究機関 | 駿河台大学 |
研究代表者 |
清水 知佳 駿河台大学, 法学部, 准教授 (10585243)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 原子力安全 / 地方自治 / 協定 |
研究実績の概要 |
本年度の研究は、コロナ禍のため、政府資料、学術論文や裁判例の分析を主としたが、考察の結果、原子力安全規制における地方自治体の権限拡大について以下の点を示唆することができた。まず、コロナが原発にもたらすリスク、すなわち、廃炉作業の遅延や避難所不足などが広く自治体・市民間で認識されていることを新聞報道や政府資料から明らかにすることができた。すなわち、避難所におけるソーシャルディスタンスの確保や廃炉作業における作業員へのコロナ対策の難しさなどは、再稼働を反対する論理的根拠として注目され、市民団体が自治体へ再稼働を反対する旨の要望書を提出し、自治体に対応を迫るという行動が各所でみられた(川内原発など)。また、司法においても、新型コロナウイルスの感染拡大により原発事故が起きても安全に避難できないことを理由に、福井県内の原発7基に対して運転差し止めを求めた仮処分が申請されるなど、のアクションがみられた(大阪地裁により却下されているが)。このようにコロナを機に原発の安全性が再度問われる中で、立地自治体や周辺自治体のなかには事業者への改善要請等を検討する傾向が生まれつつあることを本研究調査では確認できた。原子力安全協定の締結主体、内容などの見直しもその一つである。 上記考察の応用として、申請者は今後地方自治体がコロナを含む緊急時における災害対応の難しさを理由として、再稼働への事実上の合意を拒否することもできるのではないかと、その可能性を探った。現在の原子力法制が地方自治体に原子力災害対策の第一次的責務を課す限りにおいては、上記論理も不自然ではなく、実際に、東海村第二原発地裁判決が避難計画の実効性を理由に差し止めを認めていることからもかかる権限行使も十分に考えられ得るであろう。同論点についてさらに研究を進めていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の研究は、以下の理由により、やや遅れている。 第一に、コロナ禍のため、本年度の研究は前年度までインタビュー調査とは異なり、政府資料や裁判例を中心に分析する手法を主とせざるを得なかったことが挙げられる。同手法からは、国、地方自治体、電力事業者の対外的な見解を明らかにすることはできたが、その背景を深く知るために必要となる、それぞれの少数意見や、合意形成までの過程を理解することはできなかったと感じている。また、コロナ対応に忙殺されている自治体に対して全面的な協力を要請することに躊躇したことも、研究が当初より遅れた原因である。 第二に、緊急事態宣言の発動により、所属機関の入校制限、研究機関の閉鎖、子供の教育機関の閉鎖などが実施され、十分な研究時間を確保することができなかったことも挙げられる。 上記2つの理由はコロナと関係するため、今後もおよそ同様の事態が継続すると考えられるが、以下に述べる今後の研究推進方策において対応していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は前年度予定していた、茨城東海村を訪問し、インタビュー調査をしていきたい。東海村原発を研究してきた研究者とは既に研究計画について意見交換を行っており、今後もさまざまなアドバイスを頂く予定である。なお、同市は原発に関する研究を積極的に支援しており、また、原発を導入した背景を丁寧に説明している数少ない自治体であるため、本研究には欠かせない存在であると考えている。 申請者は、前年度に、米国カリフォルニア州San Luis Obispoに在するDiablo原子力発電所を訪れたが、そこでは、同市が、廃炉委員会という一般市民で構成された委員会を媒介として、連邦原子力規制庁NRC、事業者、市、市民間で情報を共有し、政策に公正かつ多様な意見を反映させるメカニズムが採用されていた。日本にはこれに類似する制度はいづれの自治体においても採用されていないが、本研究では廃炉委員会の専門性や独立性などの課題を指摘しつつも、日本への導入の可能性について模索していきたい。市民が媒介となって政府間をつなぐ、という同委員会の新しいスタイルは、日本法への有益な示唆となると考えている。同論点については現在すでに執筆中である。 最終年度を迎えるため、これまでの研究を総括した論文の執筆を積極的に行っていきたい。これまでの調査においてご協力を得られた自治体の原子力安全部署担当職員の皆様とは調査後においてもメールにおける意見交換を行っているが、コロナの影響下では、こうした連絡手段を引き続き行っていく必要があると思われる。 東海第二原発の再稼働をめぐる判例を中心として、原発の安全性とはなにをもって定義するのか、という問いに対する裁判所の見解に引き続き注目していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍において、立地自治体(国外、国内ともに)へ赴きインタビューを行うという調査方法が実施できなかったため、次年度の使用額が生じた。今後事態が改善した際には、またインタビューを再開したいと考えているが、改善が望めない場合には、前年度に引き続き資料を中心とした分析とならざるを得ない。但し、そうした場合にも、今年度購入したオンライン対応機器を利用してGoogle MeetやZoomなどを設定したオンライン調査を実施したいと考えている。また、協力していただいた方々への謝金も一定額必要になるかと思われる。 今年度は最終年度であるため、論文の執筆に必要な図書の購入に加え、公表に要する費用(製本、郵送費)などを支出することを考えている。
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