最終年度も引き続きコロナ禍にあったため、政府資料、学術論文や裁判例の分析を主とし、それに加えて、zoomを用いたオンラインインタビュー調査も併せて実施するという研究手法を用いた。本年度はこれまでの研究期間全体で得た知見を集約し、原子力安全規制における地方自治体の権限拡大について以下の点を示唆することができた。 まず、原子力安全協定の意義・役割が再評価され、立地自治体が事業者と対置する上で重要なるツールとなりつつあることを明らかにすることができた。これまでに、福島県、島根県、静岡県を中心として意見交換を行ってきたが、立地自治体や周辺自治体のなかには事業者への改善要請等を検討する傾向が生まれつつあることを本研究調査では確認できた。 また、地方自治体の自治拡大を正当化する最大の根拠は、地方自治体の政策決定に市民の意見が反映されていることにあるが、本研究では、地方自治体による廃炉市民パネルを通じた情報伝達・コミュニケーションの可能性を提示することができた。米国に特徴的であるこのパネルは市民を中心に組織され、連邦原子力規制委員会NRC、事業者、市、市民間のハブとして機能しており、立地自治体が市民の意見を正確に理解し、汲み上げる有効な手段として同国では高く評価されている。そこで、本研究では、廃炉市民パネルに着目し、パネルを通じて地方自治体が政策に公正かつ多様な意見を反映させるメカニズムを明らかにしている。また、本年度は、Diablo Canyon原子力発電所の廃炉市民パネルに対象を絞り、事業者がパネルの設置を選択する理由やその具体的な成果についてインタビュー調査を行い、その分析結果を論文に公表することができた。
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