本研究の目的は、生活保護政策を対象として、厚生省(厚生労働省)の政策形成過程と自治体の政策実施過程を接合することである。昨年度に続き、本年度も子育てを優先する必要があり、十分な研究時間を確保できなかった。また、家庭の事情で、県外での資料調査を実施するのが難しく、政策過程を記述するための資料を収集できなかった。しかし、熊本行政学研究会の報告において、自治体から提供されたケースワーカーのアンケートデータを分析し、ケースワーカーのタイプを職業人と組織人の2軸で分類できることを指摘した。これまで一枚岩の存在として描かれてきたケースワーカー像に再考を迫るものである。また、日本公共政策学会での研究報告では、子ども政策のアウトプットが自治体によって大きく異なることを実証的に明らかにした。子ども政策と生活保護政策の実施過程を比較するための準備作業として位置づけられる。 本研究の実施期間全体を通じた主な成果は以下の3点である。第一に、生活保護政策との比較対象として、保健所のコロナ対応、自治体の子ども政策や福祉政策の実施過程を分析した。日本政治学会と日本公共政策学会での研究報告、地方自治の教科書として公表した。第二に、保育士のリアリティショックの実態を実証的に示し、保育士の離職問題への政策的な含意を得た。第一線行政職員のバーンアウトや離職は、政策実施研究の中心的な研究課題のひとつである。第三に、自治体との交渉でケースワーカーのアンケートデータを入手して、第一線行政職員のタイプを整理するための理論的な視点を検討した。個人レベルのデータ分析は、第一線行政職員研究にイノベーションをもたらす可能性がある。
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