研究目的との関連: 第一の研究目的「シティズンシップの思想史および理論における定説の修正・刷新」との関連においても、そして第二の目的「市民/非市民の境界づけをめぐる規範的諸前提の再考」にかんしても、本年度もまた、顕著に研究が進展した。ロックのシティズンシップの観念を、個人主義と平等主義という、より大きな主題のなかに位置づけることができた。公刊された投稿論文1本、審査中の投稿論文が2本(うち1本は国際学会)。 本研究の目的は、古代的市民像から近代的市民権への移行が、イギリス名誉革命期において自然法理論と社会契約説にもとづく私的権利の保全を唱えたロックにはじまるという、従来の定説を再考、刷新することである。前年度までに、この課題を達成するためには、ロックの政治思想や自然法理論のみならず、彼の道徳観および経済観をも視野に含める必要があることを発見した。というのも、従来、もっぱら受動的に共同体に属すると見なされてきた人民一般を、ロックが共同体の能動的貢献者として置きなおすことができたのは、人間一般の道徳的な行為能力や、人民一般の経済的な貢献(勤勉)にかんして、彼が新たな原理を創設したからである。 この発見にもとづいて「社会思想史学会」に投稿した論文をもって、報告者は今年度、同学会の研究奨励賞を受賞することができた。同様の観点から、ロックの労働観と人間観と市民像との関連性をさらに究明するために、ある国際学会誌に論文を投稿中である(リライトを再投稿中であるものの、レヴュアーのコメントは概して好意的であった)。 研究実施計画との関連: 予定以上に研究を進めることができたと言える。前年にひきつづき、研究計画そのものを発展させることができたし、その発展した計画にもとづいた研究成果を生み出すこともできた(まだ公刊に至っていない研究成果もあるものの)。
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