本研究は、新興民主主義国家インドネシアにおいて、宗教的少数派への排斥運動を展開する勢力がいかなる条件において台頭するのか、そのメカニズムを解明することを目的としている。 昨年度までの研究の過程で、インドネシア国内のキリスト教徒やシーア派、アフマディーヤなどの宗教的少数派に対する排他的な言動を行う勢力の系譜を精査していくと、独立後の議会制民主主義時代のイスラーム主義政党であるマシュミ党を原点としている場合が多いことが明らかになった。そして、旧マシュミ党員は過去のスハルトの権威主義体制下における政治的抑圧や周辺化の経験を契機として、彼らが政権の同盟者とみなす少数派に対して排他的な言説を形成、政権批判とともにムスリム社会において流布してきたことがわかった。 本研究では、旧マシュミ党員たちが出版してきた資料を現地で収集し分析することで、こうした歴史的背景を明らかにした。そのうえで、民主化以降の少数派排斥運動の広がりおよび2014年、2019年大統領・総選挙の影響を分析した。 研究成果の発表はコロナ禍の影響により大幅に遅れていたものの、2023年度には集中的に一次資料の収集と読み込んで分析をまとめ、単著本(日本語1件)の出版にこぎつけた。 この単著本では、イスラーム主義に関する研究をまとめたうえで、マシュミ党を中心に独立期から今日のイスラーム主義諸勢力に至る系譜に焦点を当て、国内外の政治的文脈を踏まえて、その機関誌、マニフェストや評伝を精査し、彼らのイデオロギーの形成と変容の過程を描き出した。
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