研究課題/領域番号 |
18K12705
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
荒井 紀一郎 首都大学東京, 法学政治学研究科, 教授 (80548157)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 政治的価値観 / 政策選好 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、市民の政治的価値観がどのように形成され、また変容していくのかを実験や調査によって明らかにしていくことにある。研究期間2年目である今年度はおもに以下3つの実験、調査および得られたデータの分析をおこなった。 第1に、外交的な事件が有権者の政策選好に及ぼす効果を測定する実験である。この実験は報告者が尖閣諸島をめぐる日中関係が緊迫化した前後おこなった実験の追試となっており、外交イベントによって形成された有権者の政策選好がどの程度維持されるのかを検証した。実験の結果、イベントから6年が経過することによって、有権者の外交に対する政策選好はより断片化していったことが明らかになった。分析結果は、2019年8月にワシントンDCで開催された米国政治学会の年次大会で報告された。 第2に、市町村合併が政治家ー有権者関係に与える効果についての調査である。調査データの分析によって、人口規模や主要な産業などを統計的に統制してもなお、合併を経験した市町村に住む有権者は経験をしていない有権者と比較して、地元の政治家との接触頻度が低下し、政治や行政に対する満足度も下がることが明らかになった。分析結果をまとめた論文は、国際学術誌であるLocal Government Studiesから出版されることが決まっている。 第3に、圧力団体の政策影響力の変化と有権者の政治的有効性感覚の変化との関係を検証する分析である。1970年代から2000年初頭までの圧力団体調査データとその調査に対応する時期に実施された世論調査データとの組み合わせて分析すると、各団体のアウトサイドロビイングの量の変化とそれらの団体に加入している有権者の政治的有効性感覚の変化とが共変していることが明らかとなった。分析の成果は、日本選挙学会の学術誌である選挙研究に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概ね当初の予定どおり郵送調査、実験を実施することができており、また、分析結果についても確実に蓄積が進められている。それぞれの結果については適宜学会や研究会等で報告することで多くのフィードバックが得られていることに加え、研究成果の一部はすでに国内外の学術誌への掲載が決まっているものもある。年度末に実施予定であった実験は、報告者の研究機関の異動と新型コロナウイルスをめぐる社会情勢が原因で2020年度に延期しているものの、プロジェクト全体としては順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
研究期間最終年度である今年度は、これまで実施してきた実験や調査データについて再度整理しながら国内外の様々な学会やシンポジウムなどでの報告することを予定しているが、新型コロナウイルスの影響で現時点ですでに中止、延期となったものもあり、これらの場で報告することによって得られるフィードバックを活用していくことが困難な状況である。また、前年度末に実施予定であったパネル調査実験についても、有権者を取り巻く社会情勢が安定してから実施する必要がある。今年度前半については、当面、すでに得られているデータを活用しながら、国内外の学術誌への投稿などによって他の研究者からのフィードバックを得ながら成果の公表をはかっていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度末に実施予定であったパネル調査実験について、報告者の研究機関の異動と新型コロナウイルスをめぐる社会情勢が原因で当初予定していた時期に実施することが困難な状況となったため、次年度に延期することとした。調査対象である有権者を取り巻く情勢が安定し、通常の調査が実施できる状況になり次第、本研究計画では最後の調査実験を実施する予定である。
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