市民が有する政治的価値観は、彼らの若い時期に政治的社会化によって形成され、一旦形成されると比較的安定するといわれてきたものの、その形成と変容の過程については未解明な部分が多い。本研究の目的は、市民の政治的価値観がどのように形成され、また変容していくのかを実験や調査によって明らかにしていくことにある。2年間の延長期間を経て、研究最終年度となった2022年度は、これまでの研究で得られた知見をまとめつつ、7月に実施された参議院通常選挙にあわせて調査実験を実施し、政治的な事件が有権者の政治的価値観や政策選好に与える影響を分析した。
分析の結果、投票日直前に発生した事件によって主に与党支持層と無党派層が与党に対する支持を強めたことが明らかになった。ただし、パネル調査の分析によって、こうした傾向は投票日から3ヶ月後には元に戻っており、無党派の有権者が事件と選挙を経て与党支持になるケースは少ないことも示された。また、選挙区の情勢変化が有権者の政策選好に与える効果に関する分析では、今回の参院選で新たに日本維新の会の候補者が参入した選挙区では、他の選挙区に比べると、自民党支持者とれいわ支持者の政策選好がそれぞれの政党が掲げる公約に接近していることがわかった。
本研究計画全体を通じて得られた知見を整理すると、第1に、政治的事件、外交的事件、そして自然災害といった有権者にとって突発的な出来事は、いずれも彼らの政策選好や政治的価値観に影響を与える。ただし、国内政治に関する事件の影響は限定的である一方、外交的な事件と大きな自然災害については影響が少なくとも2年から3年は継続する可能性が高い。第2に、選挙区における候補者数の変化も有権者集団の政策選好を変えうる。具体的には、政党数が増えると被験者集団の政策選好の差が広がっていくことが明らかになった。
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