研究課題/領域番号 |
18K12706
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研究機関 | 山梨県立大学 |
研究代表者 |
石垣 千秋 山梨県立大学, 人間福祉学部, 准教授 (90636218)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 社会保障 / プロフェッショナリズム / 医療 / 専門職 / 不作為 |
研究実績の概要 |
本年度は、研究を推進するための基本情報の収集に努め、関連書籍の収集、論文の収集、データベースの整備を行った。情報を広く収集したことにより、当初、研究視角をどう定めるかに迷いがあったが、自身の過去の研究の発展形として、専門家の共同体がアイディアを提供して政策形成がなされるケースではなく、専門家の共同体が新しい知見を政策形成過程で提供しなかった場合にどのような結果に至っているかを観察することによって、プロフェッショナリズムと社会保障との関係をより鮮明に観察できるとの構想に至った。 より具体化すると、新しい政策を形成する際には政策決定者は積極的に新しい知見、先進的なアイディアを専門家から得ようとするが、政策決定者が政策変更を行おうとしない場合(あるいは現在の政策を継続していればよいと考えている場合)、専門家は新たな専門的知見を政策に流入する機会が得られず、科学的知見と実施されている政策が乖離していくことになる。すなわち、科学的知見の進展に対して政策の不作為が生じる。
その顕著な事例として、2018年に問題化し、2019年に救済法が成立した「優生保護法」に基づいた障害者などへの強制不妊手術を挙げることができる。また、同様に歴史を遡れば「らい予防法」による隔離政策が、最高裁判決によって「立法不作為」とされることができる。
次年度は、この構想に基づき、研究の方向性を微修正しながら事例研究のためのフィールドワークを実施し、具体的な研究成果につなげていきたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は研究環境の整備、基本情報の収集にかなりの労力を割いた。特にデータベースの整備に関しては、事務局担当者が契約に不慣れだったこともあり、予定外の時間がかかった。しかし、内容に関しては多方面からのアプローチを候補として試行錯誤した結果として、今後の研究の推進方策なども明瞭になった。 総合的にみると情報が整備され、次年度の研究をスムーズに推進する環境、資源を整えることができ、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の方向性として、政策コミュニティに対して専門家が新しい知見(アイディア)を供給しなかった場合の政策の不作為に焦点をあてて推進する予定である。近年、専門家がアイディアを供給することによって、新しい政策が展開される局面での議論は多様な政策分野で展開されているものの、専門家が新しい知見を提供しなかった場合に政策の不作為が起こる局面に関しての議論が乏しい。この局面の議論を展開することにより、専門知識の対立を基盤とした新しい政治の展開の議論に発展することが可能である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、研究遂行のための情報基盤の整備に注力したが、その過程で新たな発見もあり、研究の方向性の微調整を実施中である。そのためにさらに情報収集が必要となり、書籍や文献の購入が増えた。 また、所属研究機関で使用できるデータベースが限定的であったこと、新たなデータベースの契約や情報機器の購入について、科研費事務担当者が制度に疎く、数か月にわたって手続きが進まなかったこともあり、支出の調整を行うことができなかったことにより、次年度使用額に違いが生じた。 次年度は、実査と論文作成(英文校正が必要)を中心に行うことになるため、物品の購入は少なくなり、初年度支出がなかった旅費が人件費を中心とした支出が中心となる予定である。
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