医療制度改革に影響を及ぼしている戦前からの医療保険制度の歴史的遺産について検討を加えた。制度にロックインされた国家と専門職団体の関係が、今日の後期高齢者医療制度に至る政治過程にどう影響し、専門的知識(技術)を有するアクターが、広義の「アイディア」を用いてどのように制度変更に導いたのかを明らかにした。 特に2000年代の後期高齢者医療制度の成立に至る過程については、研究業績が多いとは言えない。かつ、前者についても、55年体制下にある自民党と圧力団体としての日本医師会の対立という視角から研究されており、専門職、専門知識を有するアクターという議論は管見の限り見当たらない。第三に、改革過程では日本医師会が国民皆保険成立直後から主張してきた「抜本改革」が1970年代、及び2000年代初頭に何度も唱えられつつ、失敗したからである。 2000年代における高齢者医療制度の形成過程においては、専門職団体の「抜本改革」の主張は途中から消滅した一方、より財政面での調整が複雑化したために、保険者団体や経済学の専門家等のアイディアが複雑に交錯した結果、政策決定に多くの時間を有する結果となった。さらに政権交代を狙う野党の利害も交錯して従来の医療政策よりも複雑な過程となったが、この点についてはさらに今後検討を加えていく必要があると考える。 社会保障制度改革に様々な角度から検討を加えた結果、新たに検討すべき事象として、専門職が新たな知見を政策に入力し、政策の修正、終了を要請しない場合の「不作為」の政治という新たな局面が見えてきた。
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