本課題の最大の研究実績は、「開国」から「終戦」へと至る、「天下の大勢」を軸とした日本政治史・日本政治思想史の著作として、単著『「天下の大勢」の政治思想史 頼山陽から丸山眞男への航跡』を筑摩選書から出版したことである。 通俗的な日本文化論として、「外圧に弱い」「大勢に流される」ことが日本・日本人の特性という主張は一般的なものであった。本研究の成果として、それは必ずしも「伝統」などと呼ばれるものではなく、明治近代以降に醸成されてきたものであることを論証した。また、そうした「特性」を「古層」であるとして、「つぎつぎになりゆくいきほひ」とまとめた丸山眞男の古典的著作も、また、日本の近代化に対する見方であったと整理した。 本課題の着想は、「日本」の対外認識・姿勢の根幹に松平定信の外交思想が位置している想定したためである。結果的に、それは定信の「鎖国」祖法論を脱却するための営為から「天下の大勢」論が統治観の中核に位置づけられる経緯をたどり、それらを主導した維新期のリーダー達が政治の舞台から退場するに従って、「天下の大勢」論が大きく変質していく過程を論じることになった。同時に、頼山陽の思想が幕末維新期から明治近代の成立にどれだけ思想的基盤となり、それが薄れ・変質していったかを描くことにもなった。政治史・思想史において、近世から近代を連続性でもって論じたともいえるだろう。 著書の出版から約一年の間、琥珀会・日本東アジア実学研究会・東海政治思想研究会・政治理論研究会の4つの研究会で書評会を開催し、また、5月21日にも日本文明研究フォーラムでも書評会を予定し、一定の評価・理解を得ている。
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