近年、大統領による実質的な既存法の書き換えを伴う政策変更に対して、連邦議会でも裁判所でもなく、州政府が、それを抑制する主体として重要な地位を占め るようになった。本研究では一次資料の歴史分析により、近年、大統領の三権分立制を脅かすような行為を阻止する主体として州政府が台頭してきていることを 指摘し、またその台頭の要因の解明を目的としている。 本研究課題の4年目となる本年度は、当初の予定通りまず、大統領が初等中等教育法に基づく補助金支出の条件としてLGBTへの寛容さを学校に要請する規定の導入を試み、それに対して23の州政府らが訴え、2016年に訴えが認められた事例について、一次資料を収集、分析した。政権側の資料は、同政権が公表した文書、報告書、演説等を分析の中心とした。州政府側の資料は、訴訟の牽引役となったテキサス州司法長官とその関係者を主な対象とした。 本来であれば昨年度に在外研究のため渡米する予定であった。そのため、その期間に時間的、経済的に効率よく資料収集できると期待し、テキサス州の州立図書館にて同州内の主要メディアの資料を収集する予定であった。しかしながら、コロナ禍により在外研究はもちろんのこと、資料調査のための渡米すら叶わなかった。 そこで近年の州政府の訴訟戦略の台頭を、1970年代から現代にかけての州政府の連邦レベルでの政治的影響力の増大という政治現象の一つに位置付け、より広い視点に立って近年の州政府の訴訟戦略の台頭の要因の考察を試みた。その結果、連邦レベルでの分極化と、それに比して州レベルでは特定の政党が優位な州政府が多数な状況が、連邦レベルでの政策決定の困難さを生むと同時に、州レベルでの政策決定の容易さをもたらし、ひいては近年の州政府の連邦レベルでの政治的影響力を増大させていることが明らかになった。
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