本研究の目的は、さまざまな選挙不正・操作の手段の中から何を選ぶか、そしてその選択を規定する要因は何か、さらに選挙不正・操作が政治体制にどのような影響を与えるかを明らかにすることである。主に、為政者の側の戦略に焦点を当てた分析と、有権者・野党勢力・市民団体(国内選挙監視団)に焦点を当てた分析という2つの側面からアプローチしてきた。分析対象という観点からは、①マレーシアに焦点を当てた一国事例研究と、②競争的権威主義体制と民主主義体制に視野を広げた多国間比較研究からなる。①については、マレーシアの政権党の選挙不正・操作戦略が長期政権の中でどのように変化してきたか、特に選挙の競争性が高まるなかでいかに不正・操作の余地が制約され、政権交代に至ったのかについて分析を行うとともに、選挙不正・操作の余地を減らすうえで有権者・野党勢力・市民団体がどのような活動を展開していったかを調査した。②については、多国間データ分析から、選挙不正・操作手段の分類・整理を行い、2つの次元でとらえることができることを示したうえで、背景にある規定要因について分析を行うとともに、選挙の公平性・不正の程度を有権者がどのように認識し、党派性やその他の条件がその認識をいかに左右することで、政党システムや政治体制にどのような影響を与えるか(特に民主主義の後退)について分析した。現時点での主な成果は、学会報告12本(いずれも論文提出、うち国際学会4本)、研究会報告6本、出版論文2本(掲載決定含む)である。まだ出版されていない論文(付随して進めている関連共同研究〔選挙監視、選挙管理委員会の独立性、選挙タイミング等〕を含む)、消化しきれていないデータ分析が残っているので、本プロジェクトの発展版として採択されている国際共同研究加速基金研究の期間内に、まとまった成果として出版できるように取り組んでいきたい。
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