研究実績の概要 |
先進諸国における規制ガバナンスをめぐる課題は、ルール形成をめぐる民主的正当性の確保・参加者の拡大による責任分散・官民関係の再定義などとともに(Ex.Bach et al.,2016; Busuioc,2016)、増加する規制数の行政側の管理コストをいかに低廉化させることができるかにある。規制増加は、理論的には、政府の失敗と規制の機能不全とともに、政府内の整合性の確保、政治的キャプチャーの温床化、官僚制化の促進や避難回避、資源の浪費に繋がるリスクを拡大させる。そしてこの問題は、ルール形成が既存の枠を越えた新しい境界領域に及ぶ場合、不確実性が伴うケースが高まることにより一層顕著なものとなる。こうした関心をもとに、本研究「市場から見る再規制国家の形成」は、現代日本における市場の自律化に伴う規制領域の拡大を実証的に分析してきた。特に、再規制過程を捉える上で独自に設定する2つのレベルの視点:(1)市場の自律化と、(2)規制を所管する行政活動の分析の組み合わせを通じて、市場における参加者の活動領域の拡大とその行動がもたらす「政策との乖離」が、いかに政府の規制量の増加と質的多様化に繋がっているかを把握している。これまで、(1)市場の自律化において、技術革新に伴う競争進展とあわせて、市場の失敗(独占)・格差拡大・選択の固定化といった副作用的な市場変化が生じていること、(2)中央政府の再規制の量的増加傾向・質的強化・手法の多様化といった知見のみならず、(3)境界領域の拡大に伴うコスト拡大や、行政・官民共同・民民(自主)規制といった3つの層いずれにおいても規制形成の量が増加していることを確認した。今後は、こうした知見の成果公表を進めていく予定である。なお、本研究は、引き続き「基盤研究C」と「国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(A))」に発展している。
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