研究課題/領域番号 |
18K12715
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
内田 智 早稲田大学, 政治経済学術院, その他(招聘研究員) (70755793)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 認知デモクラシー論 / 熟議デモクラシー論 / 現代政治理論 |
研究実績の概要 |
昨年度に引き続きコロナ禍により制約の非常に多い状況下ではあったものの、本課題の成果として「民主主義理論研究会」(オンライン開催)において「「危機」の時代におけるデモクラシーの再構想」と題して報告しデモクラシーの認知的正当化論を擁護する論議についてデモクラシーの道徳的正当化論と対比しつつ論じることを試み、2022年度中には『民主主義に未来はあるのか(仮)』(法政大学出版局)を共著者の一人として出版することができる予定である。 本研究とのかかわりに絞っていうならば、人々の間でなされる正当化実践としての熟議の包摂的かつ継続的な実現を可能とする唯一無二の体制としてのデモクラシーには認知的価値が備わっている。とりわけ、人々の間で不合意が生じている状況においてこそ、二人称的な「理由の交換」のプロセスとしての熟議が備える独自の認知的価値が見出される。相互往還的な理由づけとしての熟議のプロセスのなかで、自他の間で不合意が生じていると認識する人々は、自らが抱いている意見を確固不変のものとして保持している状態に安住しない。そうではなく、人々は自らの意見が自己のみならず他者をも納得させうる理由に基づくものであるかを再検討し、必要とあらばより妥当な理由に基づく意見への修正へと導かれる。こうした熟議に対するインセンティヴと熟議の機能は、「政治」という根源的な不確実性を避けることのできない局面においてその意義を発揮する。政治の世界において熟議が認知的に「よりよい」帰結をもたらす蓋然性を高める道筋は、問題の探知と解決策の生成において認知的資源となる多様なパースペクティヴを備えた人々を熟議のプロセスへと平等かつ継続的に包摂するよりほかない。こうした熟議の認知的価値についてエレーヌ・ランデモアの議論を研究することを通じて明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度(令和3年度)は、引き続き新型コロナ感染症問題により、研究計画の遂行にあたっては大幅な制約を余儀なくされた。研究活動環境は昨年から状況はやや改善したことにより進捗を図ることはできたものの、研究計画はやや遅れる結果となっている。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度もコロナ禍以前の当初の計画に照らせば遅延してしまっている現状を踏まえつつ、最終年度となる本年度には当初の計画をさらに絞り込み、既に一度公表した反デモクラシー論の最新の展開を再度整理しつつ、それに応答し、批判することのできる論拠をユーゴー・メルシエ、ダン・スペルベルによって展開された「理由づけの論議理論」のうちに探究し、さらには規範的語用論の観点から「理由の空間」における推論ゲームとして人間の推論行為を捉え直すロバート・ブランダムのプラグマティズムも参照しつつ、熟議デモクラシーの観点から認知的価値を析出しようと試みるエレーヌ・ランデモアの熟議デモクラシー論をさらに改善させ研究者独自の議論として再構想することを試みたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
引き続き、コロナ禍に伴う研究活動への大幅な制約による。当初、海外での研究活動ならびに研究発表の機会を設けることを狙いとしていたがこれは残念ながらかなわなかった。また、研究活動を圧迫する大学における他の業務(オンラインを通じた教育、会議など)は考えられている以上に負担が大きく、結果として2022年度への延長を申請することとなった。 2022年度は、残された交付額を用いて論文執筆に必要となる研究図書の充実とその他発生する関連経費に使用する予定である。
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