本研究は、19世紀前半のイギリスが債務不履行を回避しつつ、国際的優位を維持するために、財政政策と外交政策の「ジレンマ」にどのように向き合っていたのかを追跡したものである。前年度に補助事業期間再延長申請を提出し、新たに最終年度となった2023年度には、前年度までに積み残してきた課題を解消すると共に、研究全体の総括を目指した。研究期間の延長によって、当該年度および期間全体の研究目標は概ね達成できたと考えている。 2023年度には、「財政=外交ジレンマ」(外交政策のために平時軍備の増加を要求する外務側と、財政政策のために平時軍備の削減を要求する財務側の潜在的な対立構造)について、1830~40年代の財相経験者が有していた外交・軍事認識を中心に分析を進めた。具体的には、オルトロップ・ライス・ベアリング・ゴウルバン・ウッドの5人の財相に注目し、彼らの平時軍備に関する認識を、議会議事録における下院財政審議等から分析した。 上記以外の研究項目である、「財政=外交ジレンマ」の理論構築や外相経験者の財政・軍事認識については、2022年度以前に既に分析を完了しているため、上記によって研究計画の全体を概ね完遂できたと言える。また今後の研究の展開として、申請者は財政=外交ジレンマの党派的な展開を複雑化する要因の一つとなった派閥の離合集散に注目しており、当時のウィッグ・保守党の英国二大政党間での第三党移動に関する研究に既に着手している。
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