本研究では、中国の対外行動の前提となる同国の海洋領域認識の実証的検討を行うとともに、二国間関係の文脈で説明されてきた日中関係を、両国による他国の支持獲得競争という多国間関係に着目して捉え直し、戦略的対立の理論の修正的適用を試みた。「300万平方キロメートルの海洋国土」という中国の海洋領域認識の形成過程を分析することで、本研究は中国と現存する海洋国際秩序との緊張構造の解明に大きく寄与した。また本研究は、戦争に至らない大国間の外交競争という21世紀の日中関係の文脈に戦略的対立の理論を置き直すことで、従来は武力衝突や戦争へのエスカレーションに強く関係付けられてきた同理論の説明力を高めている。
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