研究課題/領域番号 |
18K12725
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
三牧 聖子 同志社大学, グローバル・スタディーズ研究科, 准教授 (60579019)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 国際秩序 / リベラリズム / 国際主義 / 民主主義 / 人権 |
研究実績の概要 |
「リベラルな国際主義」を基調としてきたアメリカ外交は20年間の「テロとの戦い」を経て、大きな転換点を迎えている。2021年8月のアフガニスタンからの米軍完全撤退に象徴されるアメリカ外交の転換、「リベラルな国際主義」そのものの批判や問い直しが生まれている状況については、『バイデンのアメリカーその世界観と外交』(東京大学出版会 2022年4月)所収の「介入しないアメリカ――新しい世界関与の模索」で考察した。 もっとも、急速に非介入主義を強めているアメリカ外交だが、全世界で90万人の犠牲者を出したともいわれている(ブラウン大学「戦争のコスト」プロジェクトの計算)20年間に及ぶ「テロとの戦い」を反省し、清算したとはいえない。毎年9.11に行われる追悼式典でも、9.11の後に遂行された「テロとの戦い」がいかにアフガニスタンやイラク、世界で多くの犠牲者を生み出したかは語られてきていない。アメリカがいまだに向き合えていない「テロとの戦い」の犠牲やコストについては、『「ヘイト」に抗するアメリカ史ーマジョリティを問い直す』(彩流社、2022年4月)「アメリカ人権外交の欺瞞ー不可視化されてきたアメリカの暴力」で考察した。
また、今年度は現代アメリカにおける民主主義の危機についても考察を深めることができた。昨年11月の中間選挙において、共和党候補の半分にあたる300人が、2020年大統領選に疑義を呈する「選挙否定論者(election denier)」であった。今年は、トランプ前大統領の公文書持ち出し問題など、下院に設置された2021年連邦議会議事堂襲撃事件の特別委員会の動向など、米国民主主義の未来をうらなう重要案件について多角的に検討してきた。その成果は、「中間選挙後のアメリカ」『海外事情』(2023年1・2月号)として寄稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、政治家としてのウッドロー・ウィルソンの、特に負の側面について考察を深めることができた。革新主義的な政策を追求したウィルソンだが、人種差別的な考えを持ち、その普遍主義にも人種主義の刻印が刻まれていた。もっとも、これは当時の革新主義者に広く見られたものであり、今年度は、当時の文脈における革新主義と人種主義との連関についても考察を進めた。
また、これまでの考察に足りてこなかった観点として、ジェンダーの視点がある。ウィルソンの保守的な女性観、女性参政権問題への微温的な態度については、すでにジェンダー研究の分野で先駆的な業績があるものの、それによって、ウィルソンという多面的な顔を持つ政治家の評価をどう修正すべきかについては、まだまだ考察を深めるべき点が多い。この考察を進める上では、4名のアメリカ研究者との共著『私たちが声を上げるときーアメリカを変えた10の問い』の執筆が大いに役立った。#Me Tooなど、ジェンダー平等を求める現実の動きの中で、政治学も急速に変化を迫られており、こうした近年の政治学の成果を、ウィルソン評価にどのように生かすかについては、今後も考察を進めていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
ウッドロー・ウィルソンは、世界に、アメリカ型の民主主義を「輸出」することによって、よりよき世界が実現されるという前提のもと、「宣教師外交」を展開した人物として知られる。この時代に存在した米国民主主義への絶対的な確信、信頼が、その100年後のいま、根本的に揺らいでいる。現代アメリカの民主主義の危機についての理解を深めることは、ウィルソンの政治外交の今日的な意義を明らかにすることに大きく貢献する。
次年度は、ウッドロー・ウィルソンの政治外交、思想についてさらに研究を進めるとともに、多角的に進行する現代アメリカの民主主義の危機についても考察を深めていく。最終的な成果は、『ウッドロー・ウィルソン』として出版予定で、執筆を進めている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症の流行のため、海外資料調査の予定を延期せざるを得なかったため。
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