2022年度には、Covid19感染拡大によって遅れた現地調査をようやく実施することができたほか、アウトプットに向けて論文をまとめる作業を進めた。具体的には、スーダンのハルツームで、民主化勢力関係者、ジャーナリスト、ナイル川の水の専門家、研究者などへの聞き取りを実施することができた。これにより、おおまかに次のことが明らかになった。 (1)2021年10月25日の軍によるクーデタ後、スーダン政府はナイル川の水配分をめぐる交渉プロセスにおいて、エジプトよりの立場を固めるようになった。また、国軍はエチオピア国境の係争地での軍事作戦実行を通じて以下のような目的を達成した。 (2)エチオピア・スーダン間の対立をエスカレートすることにより、エチオピアがこれまでにはたしてきたスーダン民主化プロセスの仲介役を不可能なものにした。 (3)エチオピアとの国家間紛争危機を助長することにより、エジプト・スーダン国軍の軍事協力レベル引き上げを正当化した(両国軍間の空軍による合同演習の実施に対してスーダン国内からの反対が少なかった)。 本研究の開始当初は、流域諸国間の水資源の配分をめぐる交渉プロセスのみに注目していたが、研究を進めていく中で、流域各国内政治、とりわけ、体制の生存戦略の一環として、ナイル川の水問題が使われてきたことがわかった。エジプトやエチオピアの国内政治との関連、あるいは、湾岸諸国とエジプトとの関係を分析することの重要性が高まっていることが指摘できる。この観点から、2023年3月にエジプト・スーダン関係をナイル川の水問題と絡めた研究成果を発表した。
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