研究課題/領域番号 |
18K12728
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
田中 周 中央大学, その他部局等, 客員研究員 (10579072)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 国際関係論 / 安全保障 / 経済開発 / 反テロ政策 / 中国 / 中央アジア / 新疆 / ウイグル |
研究実績の概要 |
本研究は、「安全保障-経済開発のネクサス(security - development nexus)」および「グローカリティ(glocality)」という新概念からなる理論的枠組みを用いて、現在の中国-中央アジア関係を舞台とする、新疆における中国の反テロ政策を分析する事を目的とする。この目的を達するための具体的な研究タスクとして、①理論的枠組みの作成・普遍化、②安全保障面の分析、③経済開発面の分析、の三つを設定し、各タスクは「収集」、「研究」、「発信」のプロセスを通じて解明を試みる。 初年度にあたる2018年度(平成30年度)は、タスク①とタスク②を中心に研究を実施した。具体的には、タスク①では、「安全保障-経済開発のネクサス」に関する研究状況を整理し、本研究で用いる理論的枠組みの作成を進めた。また、タスク②では、(a)中国の反テロ政策の歴史的背景と現状、(b)中国の反テロ構造、(c)新疆における対反乱作戦、(d)中央アジアにおける地域反テロ戦略の分析を進めた。これらの研究成果は、次年度以降の研究の土台をなすものであり、今後の研究推進にとって意義のある進展となった。 加えて、シンガポールにおいて、海外研究協力者の協力のもとで、中国の安全保障におけるインドの役割、インドの反テロ政策、中央アジアにおけるインドのプレゼンス、ロシア-インド関係、シンガポールの研究状況に関する調査を実施した。中国-中央アジアの国際関係、および当地域の安全保障-経済発展のネクサスを分析する上で、インドの視点は欠かすことができないものであり、重要な知見をこの海外調査で得ることができた。 最後に、以上の研究成果の一部を、学術論文3点(中国語論文1点、日本語論文2点)にまとめた。加えて、本研究の成果発信を目的とするホームページを整備し、日本語、英語、中国語の各言語で研究成果を公開する場を整えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度(平成30年度)の研究計画は、タスク①(理論的枠組みの作成・普遍化)とタスク②(安全保障面の分析)の実施を目的としており、(a)「収集」、(b)「研究」、(c)「発信」の3つのプロセスをつうじて、この目的をおおむね達成することができた。 (a)「収集」では、タスク①とタスク②に関する文献・データを収集した。さらに、シンガポールにおいて、現地の研究者に対するインタビュー調査を実施した。(b)「研究」では、「収集」で得た文献・データやインタビュー結果をもとに、資料分析、データ分析を行った。(c)「発信」では、「研究」で得た成果を3本の学術論文にまとめた(1点は刊行済み、2点は近刊)。特に、新疆の事例においては二つの「安全保障-経済開発のネクサス」が存在する(①中国政府による安全保障の確保無しには、新疆の「包摂的な発展(inclusive development)」は実現しない。②中国政府がテロ問題に効果的に対処するためには、中央アジアおよび新疆における貧困の削減と経済開発の促進が不可欠である。)、という暫定的結論を導き出すことができたのは重要な進展であった。 本研究課題では、中国の周辺国の若手研究者のネットワークを構築することも主眼の一つである。その意味で、質の高い中国研究およびインド研究を実践しているシンガポールで海外調査を実施したことによって、シンガポール国内の研究状況を把握できたこと、ならびに現地の若手研究者との協力関係を強化できたことは、今後の研究推進の大きな礎となった。一方で、海外調査に関しては若干の計画修正を行った。当初は中国での現地調査も予定していたが、現地研究機関との調整ならびに事前準備を入念に行いたいとの考えから、これを次年度に延期することとした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の2年目にあたる2019年度(令和元年度)は、タスク①とタスク②に加えて、特にタスク③(経済開発面の分析)の分析を重視して推進する。具体的にタスク③では、(a)新疆における社会・経済開発戦略の歴史的背景と現状、(b)新疆と「中国-中央アジア-西アジア」経済回廊の関係(天然ガスをめぐるエネルギー安全保障)、(c)新疆と「中国-パキスタン」経済回廊の関係(石油をめぐるエネルギー安全保障とグワダール港をはじめとするドライ・ポートのネットワーク形成)、(d)新ユーラシア・ランド・ブリッジ(高速鉄道インフラ建設と鉄道輸送の促進)、(e)シルクロード経済ベルト(SREB)経済回廊と中央アジア地域経済協力(CAREC)および中央アジア・南アジア地域電力市場(CASAREM)との関係を分析する。 加えて2019年度は、(a)グローバル・レベル(国家間関係、国際組織等)、(b)ナショナル・レベル(国民国家)、(c)サブ・ナショナル・レベル(本研究では「新疆」を指す)の各レベルの相互作用を重視し、近年注目されはじめた「グローカリティ」の概念を用いて各レベルの相互依存性・連続性を分析する事で、大局的観点に立った研究を目指す。 具体的に、(a)「収集」では、タスク①、タスク②、タスク③の分析を進めるための文献およびデータの収集を行う。(b)「研究」では、「収集」で得た文献やデータをもとに分析を進める。(c)「発信」では、「研究」で得た成果を、国際会議報告と学術論文の形で公表する。なお、海外調査は中国で実施し、さらにカザフスタンあるいはパキスタンでの調査も計画する。また、各国の若手研究者との研究ネットワーク構築も継続して推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度(平成30年度)の直接経費の未使用額は、38万9575円であった。未使用額が生した主な理由は、中国で予定していた海外調査を次年度に延期したためである。この未使用額を加えた2019年度(令和元年度)の研究予算(直接経費)は、合計で138万9575円となる。以下に研究費の使用計画を示す。 (a)タスク①、タスク②、タスク③に関わる研究資料購入費として、30万円を予定する。(b)中国、カザフスタンあるいはパキスタンで実施する海外調査旅費として、70万円を予定する。(c)国内調査旅費として、8万円を予定する。(d)国内外の研究協力者・研究補助者に対する謝金として、15万円を予定する。(e)専用ホームページの年間運営費として、6万円を予定する。(f)消耗品費(データ保存用CD-ROM・USB、プリンタインクカートリッジ、ソフトウェア、文房具の購入)として、9万円を予定する。 以上の合計額は「138万円」で、この研究費使用計画により、2019年度の研究を遂行する。
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