本研究は、ユーラシア地域の分離主義紛争について発生・激化・再発などのダイナミズムがなぜ生じているのか、紛争の成り立ちや構造に注目することで明らかにしようと試みる研究であった。本年は、これまでの研究のとりまとめに取り組むこととした。 コロナもあり、当初予定していた研究計画が狂い、ウクライナやドニエストルなど、これまで予備的な考察に留めていた紛争地域について本格的な考察を行うことが困難になった。そこで、南北コーカサスの紛争に改めて焦点を絞り、紛争の構造がいかに形成され、それが紛争のダイナミズムとどのように結びついているのか、体系的な考察と分析を行うこととした。これは年度末に単著として刊行した。ここでは、各紛争の起源・経緯・結果という三つの時間軸に注目し、紛争のダイナミズム(発生・激化・再発など)の変化と紛争当事者内部の一体度(団結や分裂の度合い)の関係性を論じた。またそれぞれの紛争の成り立ちや構造を比較し、なぜ紛争の平和的解決が困難になったのかを明らかにした。特に領域や国家、民族の境界が揺らぎ、様々なアクターが錯綜する中で紛争のダイナミズムが生まれているという事実に注目し、現在もコーカサスの分離主義地域が国際社会に提起している未承認国家や急進的イスラーム過激派組織などについても考察を進めた。本研究を通して明らかにした知見は、南北コーカサス地域に限らず、他の地域の分離主義紛争のダイナミズムを解析する際の分析視角になり得ると考えており、本研究で得られた知見をさらに発展させる研究にも今後取り組みたい。
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