研究課題/領域番号 |
18K12731
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研究機関 | 名古屋商科大学 |
研究代表者 |
兪 敏浩 名古屋商科大学, 国際学部, 准教授 (80530245)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 日中関係 / 華国鋒政権 / 尖閣問題 / 漁船事件 |
研究実績の概要 |
2018年度において、筆者は主に1978年尖閣漁船事件を事例に、中国の内政と対日関係のリンケージを明らかすることを目指した。 1978年尖閣漁船事件は日中平和友好条約交渉の再開直前に発生したため、中国国内の対日強硬派の妨害工作であるのではないか、または中国政府が交渉前に日本をテストするための手段ではないかなどの様々な憶測がこれまでなされてきた。つまり同事件は日中平和友好条約交渉と結びつけて考えられてきたのである。 筆者は上海市档案館の档案資料に基づき、1978年尖閣漁船事件は上海市をはじめとする地方の漁業部門が水揚げの増大を目指して、先を争って尖閣周辺で漁獲活動を行った結果、偶然に生じた事件であったことを明らかにした。 「四人組」逮捕後、華国鋒政権は権力の正統性を強化するために、四人組に連なる勢力に対する粛清を行いながら、経済の飛躍的な発展を目指した。生産指標が低いと四人組批判が進んでないことの裏返しと批判されたため、上海市の水産局など文革派の影響力の強かった「単位」では増産に向けた強い圧力に晒された。1978年に入り、華国鋒政権の超高度経済成長路線が実施に移されるなか、漁業部門も記録的な漁獲高を目指した。4月、尖閣周辺でウマヅラハギ魚群が見つかり、各地の漁船が尖閣周辺に集結して操業を続けた。各地から大量の漁船が集まるなか、それらを統率する指揮機関が存在しなかったため、現場は混乱を極めた。 同事例研究を通じて、中国の内政が対日関係に影響を及ぼす一つのパターンが明らかになった。すなわち、政治中枢の交代により、国家戦略方針に変化が生じる。その新たな戦略方針にどれだけ忠実に応じたかによって各部門、地方に対する評価が定まる。国内政治が優先されるため、各部門、地方の行き過ぎた競争は、意図せずに対外摩擦を引き起こす場合があるということである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初本研究課題の初年度に当たる2018年度の目標として、1970~1980年代における中国の主な政治人物のパーソナルネットワークについてその全貌を明らかにすることを目指した。そのうえで、2年目から事例研究を進める計画であったが、1970年代の中国の国内政治を調べるうちに、一次資料を入手することができたため、研究計画を調整し、1978年尖閣漁船事件に対する事例研究を先に進めることにした。 その結果、当初の研究計画で想定していた初年度にパーソナルネットワークの全貌を明らかにする作業はまだ完成していない。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度にも、パーソナルネットワークの全貌を描く作業を続けながら、事例研究も同時に行う形で研究活動を進める方針である。
次の二つの事例研究が今後の課題となる。一つは、1980年代の中国政治における胡耀邦の役割。この事例では、パーソナルネットワークの視点から胡耀邦が失脚に至る経緯を明らかにする。それに加えて胡耀邦が対日外交で果たした役割、そして彼の失脚が日中関係に及ぼした影響についても研究を進めていきたい。もう一つは、1970年代初頭の中国の対外戦略の転換と国内政治のリンケージについての事例研究である。
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