本研究は、「弱い」国際機構が国際社会においてどのような役割を果たし、どのような影響を与えることができるのかを、国連人道問題調整事務所(OCHA)を事例として解明しようとしたものである。予算規模や職員数、権限が極めて小さいOCHAは、国際社会に対して影響力を発揮することが難しいと考えられるものの、世界人道サミットなどを通して、アクター間の学習を促し、人道支援の考え方の転換を図った。このOCHAの活動の分析を通して、「弱い」国際機構が果たしうる役割・影響力を検討し、比較分析の基礎とすることを目的とした。 最終年度(2022年度)は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の状況も徐々に落ち着き、海外渡航も可能になった。そこで、OCHAの比較対象として研究を開始していた世界保健機関(WHO)の分析のために、スイス・ジュネーブにおいて聞き取り調査を行った。その結果として、WHOはその「専門知識」を権威の源泉として他機関との調整を行っており、OCHAとは異なる調整方法を採用していたこと、また、両者は2013~2016年にかけて生じたエボラウイルス病危機の後に人事交流などを通して関係を強化していたことなどが明らかとなった。この成果は学術誌に投稿し査読中である。なお、ウガンダでの現地調査も検討していたが、昨秋にエボラウイルス病の流行があり、渡航可否に関する状況の見極めが必要となったため、実施できなかった。 研究期間全体として、2年目後半よりCOVID-19の世界的流行が発生したことで、本研究の重要な位置を占める現地調査がほぼ不可能となった。この不確実性・制約の中ではあったが、OCHAの役割について理論的・実証的に検討し、単著および複数の論文を発表することができた。さらに、WHOという比較対象の調査も開始できたことで、今後の研究発展にもつながるものになったと評価できよう。
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