研究実績の概要 |
今年度は、本プロジェクトの目標である「社会にとって適切な均衡へと導くメカニズムの解明」に向けて、主に理論研究を中心に行った。完全な合理性の仮定を緩和した限定合理的な人々が、長期的にどのような社会状態に到達するかを解明する分析を行い、Sawa and Wu (Journal of Mathematical Economics 78, pp.96-104, 2018)、Sawa and Wu (Games and Economic Behavior 112, pp.98-124, 2018)、Sawa (Games and Economic Behavior 113, pp.633-650, 2019)の3編の論文をまとめた。 最初の2編の論文では、人々の損失回避傾向を仮定したプロスペクト理論に従う人々が、どのような社会状態に長期的に到達するかを分析した。損失回避の傾向が強まると、マキシミンと呼ばれる最大損失を最小化するような状態に到達する傾向が高まることが示された。最大損失を最小化する状態が必ずしも社会的に効率の良い状態とは限らないため、社会状態が損失回避傾向に依存する点は今後の研究でも注意深く検討する必要があるという示唆が得られた。3編目の論文では、協力ゲームと呼ばれる人々が協力して意思決定をする場合に長期的に到達する社会状態の分析を行った。協力ゲームの状況では、富裕なプレイヤーの富を最小化するような状態、つまり比較的平等と考えられる状態が長期的な均衡となることが明らかとなった。しかし、この状態は哲学者ロールズが提唱した最も貧しいものの富が最大となる状態とは少々異なっており興味深い。今後の継続研究につながる示唆が得られた。
|