研究課題/領域番号 |
18K12745
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
川上 圭 青山学院大学, 経済学部, 准教授 (90786237)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | M&A / Takeovers / Disclosure |
研究実績の概要 |
第二論文(Disclosure Services and Welfare Gains in Takeover Markets)を査読誌に投稿後、改訂要求があった。査読者からのコメントの中で「理論モデルの中でM&A仲介業者が企業に課す手数料の形態を一般化すべきである」(投稿時点では、仲介業者はどの企業に対しても同一の手数料を請求すると仮定していた)という指摘があったため、一般化を試みた。その結果、(1)M&A市場の均衡条件を一般的な形で定式化し、(2)手数料が固定費と企業価値に比例する変動費の組合せからなる場合について均衡を求め、最適な手数料を求めることができた。 (1)はモデルの応用範囲を広げるものであり、(2)は実際に投資銀行等が利用する手数料体系に近く、モデルの現実妥当性を大きく向上させた。特に、買収価格に比例した手数料は資源配分の効率性を大きく歪めること、また、この手数料に適切な上限を設定することで、仲介業者による情報開示サービスを活用しつつ最適資源配分に近い結果を得られることがわかった。 改訂後の論文に対して、査読者1名は受理と判断したものの、もう一名が「純粋理論としての貢献不足」として反対したため、この査読誌への掲載には至らなかった。 現在、他の査読誌に投稿中であり、掲載に至るまでに学会発表やセミナー発表を続ける予定。 この改訂プロセスで得た知見を基に、第三論文(Trading Costs in Takeover Markets)に着手した。第二論文では被買収企業だけが情報開示のための手数料を支払うと仮定していたが、買収企業も含めてより一般的な「M&A取引費用」を導入した。 今後、取引費用の性質を産業特性と関連付ける(例えば固定費の節約がM&Aの重要な動機となる産業かどうかなど)ことで、「どのような産業でどのような企業がM&Aに前向きか」を分析していく計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
改訂作業に時間がかかったため。また、査読誌での審査にも時間がかかっている(投稿後、改訂要求が来るまでに半年程度)。
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今後の研究の推進方策 |
第二論文は現在投稿中の査読誌での審査結果に応じて、改訂作業を行う。審査結果が返ってくるまでの間は、セミナーや学会での発表を行う。 第三論文は、第二論文の改訂作業で得られた一般化の成果をもとにワーキングペーパーの執筆を行う。上述した取引費用の一般化に加えて、二つの企業の特性を組み合わせて新たな付加価値を産む「M&A技術」を一般化した場合についての分析も行う。これによって、M&Aシナジーが大きい産業と小さい産業の区別や、買収企業側の貢献が大きい産業と被買収企業側の貢献が大きい産業の区別などができるため、政策含意を導きだしやすくなる。 第一論文(Sorting,Selection,and Announcement Returns in Takeover Markets)は、論文の方向性を再検討する。株式投資家が企業のどの側面を知っているかに応じてM&Aに対する株価の反応(announcement returns)が変わってくるという理論的な結果をメインとした現行路線を維持するのか、あるいは企業規模と株価の反応の関係性に着目した新たな分析をメインとするのかを検討している。後者の分析を進めて十分な学術的貢献があると判断できれば、第四論文(Announcement Returns and Firm Size in Takeover Markets)としてまとめ、第一論文は小論としてまとめ直した上で適切な査読誌に投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費を必要とする学会やセミナーでの発表機会がなかったため。 2022年度は海外での学会発表を予定している(ただしオンライン参加となる可能性もある)。
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