【最終年度に実施した研究の成果】 (1)ワーキングペーパーの国際学会での発表、(2)査読誌に投稿した論文の改訂作業、を行った。一つの論文が査読誌への掲載を認められた。 【研究期間全体を通じて実施した研究の成果】 M&Aの理論モデルを、多次元の異質性を持つ多数の意思決定者(企業)の間のマッチングとそれに伴う資源再配分という枠組みの中で構築した。先行研究で既によく理解されているマッチング関数(均衡において誰と誰がペアになるかを記述する関数)だけでなく、セレクション関数(均衡において誰がマッチング市場に参加するかを記述する関数)が理論的にも実証的にも重要であることを強調したのは本研究が初めてである。 理論モデルの応用として、M&A市場におけるアナウンスメント・リターン(M&A発表時に起こる株価の反応)を理解する上で、どのような企業がM&Aの買い手・売り手になるかを特徴づけるセレクション関数の形状が決定的に重要であることを示した。 その他の応用として、M&A市場における仲介業者を通じた情報開示を明示的に取り入れたモデルを構築し、分析した。このモデルでは、詳細な情報開示を手助けする仲介業者が独占力を持ち、M&A企業から手数料を徴収する場合には、企業による自主的な情報開示が信用されないままM&Aが起こる場合と比べても企業の厚生は低下することを示した。また、この問題を解決する政策提案として、最低限の質を保証する「粗い」情報開示制度を無料で企業に提供する政策を分析した。この政策によって、M&Aの資源再配分効果が高い(従って詳細な情報開示が重要となる)企業群に仲介業者の活動領域が限定され、仲介業者の価格支配力が弱められるため、M&A市場を通じた資源再配分の効率性が大幅に改善することを示した。
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