本研究課題は経済主体の自己実現的期待によってマクロ経済変数のダイナミクスをどの程度説明できるのかという問題について、理論的・定量的アプローチを用いて検証することを目的とする。2020年度は前年度に引き続き、労働市場における失業と期待の関係についての理論モデルを構築し分析する作業、および金融市場における複数均衡の発生や自己実現的期待による経済変動の可能性についての検討を実施した。 これに加えて、2020年度においては国際経済に関わる問題にも着手し、開放経済マクロモデルにおける複数均衡の発生、そしてそれに伴う自己実現的期待による経済変動の可能性についての文献の整理検討を行った。 労働市場のマクロ経済学的分析については、サーチ・マッチング理論を用いたモデルを分析枠組みとし、自己実現的期待が失業の発生にどのような役割を果たすのかという問題を軸に本研究課題を進めている。一方、金融市場に関しては、銀行の異質性および銀行間取引の存在するモデルのもとでの検討を進めている。また、国際経済の問題については、二国の存在するモデルを想定し、そこで価格の硬直性および企業の借り入れ制約を仮定したもとで、期待が自己実現的なショックとして機能し、経済に影響を及ぼすメカニズムについて検討した。 2020年度も理論的な検討が中心となったが、今後は定量的な分析へとつなげていくことを目指していく。なお、新型コロナウィルス感染拡大に関わる諸対応に多くの時間を割く必要があり、研究に注力することが難しい状態が続いた。
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