本研究課題は経済主体の自己実現的期待という要因からマクロ経済変数のダイナミクスをどの程度説明できるのかという問題について、理論的・定量的アプローチを用いて検証することを目的とする。2021年度は国際経済に関わる問題に取り組み、開放経済マクロモデルにおける複数均衡の発生とそれに伴う自己実現的期待による経済変動の可能性についての文献の整理検討を進めるとともに、理論モデルの分析を中心に行った。 分析においては、二国の存在するモデルを想定し、そこで価格の硬直性および企業の借り入れ制約の存在を仮定した。この設定のもとで、期待が自己実現的なショックとして機能して経済に影響を及ぼすメカニズムについて、すべての財が貿易財である場合と、貿易財と非貿易財の両方が存在する場合とでどのように異なるかについて検討を進めた。 上記の分析に加え、理論研究を補完するために、国際経済の文脈で期待が大きく影響した可能性のある事例の整理も行った。特に、過去に発生した金融危機についての文献の比較検討を行うことを通じて、自己実現的期待が国際経済に影響を及ぼす可能性について、モデル分析とはまた異なる角度からアプローチすることを試みた。 今後は理論分析を発展させるとともに、定量的な分析へとつなげていくことを目指していく。なお、2021年度も2020年度に引き続いて新型コロナウィルス感染拡大に関わる諸対応に多くの時間を割く必要があり、研究に注力することが難しい状態が続いた。
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