研究課題/領域番号 |
18K12747
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研究機関 | 駒澤大学 |
研究代表者 |
西村 健 駒澤大学, 経済学部, 准教授 (20735229)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | メカニズムデザイン / オークション / シグナリング |
研究実績の概要 |
2021年度は、論文“Informed Principal Problems in Bilateral Trading”を改訂し、国際学術誌 Journal of Economic Theory への4回目の再投稿をおこなった。同誌の査読者の1人から、「最近の論文で同様の研究がなされているので、その論文と本論文との関連を明らかにせよ」という主旨のコメントがあったため、その点を中心に論文を改訂した。再投稿の結果、2022年5月27日に同誌の編集者から採択の返答をもらうことができた。特筆すべきは、この論文の改訂作業を通じて、本研究の基礎となる一般的方法論(「完全遂行理論」を応用した手法)を獲得できたという点である。今後は、そのアプローチを活用して研究を進めることが可能となる。 冒頭の論文とは異なり、本研究が主眼とするのは、オークション環境を代表とする、エージェントが複数人いる環境である。そこで、そのような一般的経済環境を想定し、ある特定のメカニズムが均衡で選ばれるための必要十分条件を導出した。そのメカニズムとは、「私的情報を持つプリンシパルによるメカニズムデザイン」の分野で「ロスチャイルド・スティグリッツ・ウィルソン配分」と呼ばれる概念に相当する。そのメカニズムは、プリンシパルのタイプに関するエージェントの信念に全く依存しないという意味で、頑健的な性質を備えている。そのメカニズムは特徴付けも比較的容易であり、オークション環境でどのような形式をとるかの見通しがついている。上記の必要十分条件の導出を踏まえ、その分析結果をまとめた論文を執筆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
論文“Informed Principal Problems in Bilateral Trading”の結果を拡張して、オークション環境を代表とする、エージェントが複数人いる環境においても同様の理論結果が成立するか、詳細な理論分析を進めた。とくに、「ロスチャイルド・スティグリッツ・ウィルソン配分」について、それが均衡で選ばれるための必要十分条件を、極めて一般的な環境で導出することができた。これは、本研究が当初掲げていた目標の1つである。冒頭の論文では、「相対取引という特定の環境における同条件の十分性」のみが示されていたので、一般的環境において同条件が必要十分になるという結果の導出は、極めて大きな進展である。 ただし、オークション環境において、その必要十分条件がどの程度一般的に成り立つかは、今後明らかにすべき課題として残されている。また、ロスチャイルド・スティグリッツ・ウィルソン配分が均衡メカニズムとしてどのような形状をとるかについて、詳細に分析しなければならない。さらに、シグナリング理論で標準的な均衡精緻化概念(「直観的基準」など)を用いて、その配分以外の均衡メカニズムを削除できるかどうかについて、引き続き分析を進める必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、オークション環境に焦点を当てて、下記の点を中心に理論的な分析をおこなう。 ・ロスチャイルド・スティグリッツ・ウィルソン配分が均衡で選ばれるための必要十分条件が、どの程度一般的に成り立つか(環境に関する条件)を明らかにする。 ・ロスチャイルド・スティグリッツ・ウィルソン配分が均衡メカニズムとしてどのような形状をとるかを明らかにする。 ・シグナリング理論で標準的な均衡精緻化概念(「直観的基準」など)を用いて、その配分以外の均衡メカニズムが削除されるかどうかを明らかにする。 分析がある程度まで進展次第、得られた結果を論文に盛り込み、ワーキングペーパーとして公表する。それと並行して学会報告をおこない、国内外の研究者からコメントをもらう。新型コロナウィルス問題のため、海外での発表は難しいかもしれないが、その場合は国内の学会で報告をおこなう。最終的に、論文が国際学術誌に掲載されることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス問題により、国際学会発表や共同研究者との打ち合わせの機会を得られなかったため、次年度使用額が生じることになった。2022年度は、国際学会発表の機会が得られた場合には、その出張費に研究費を使用する。また、本研究課題に関連したオークションの実験を実施する予定なので、被験者への謝金として研究費を使用する予定である。
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