本年度は,ロレンツ曲線やSIRモデルといったような,形状に制約がある関数やモデルを使って時系列データ解析ができるように状態空間モデルの枠組みで柔軟かつ安定的に推定できるような統計モデリングに関する研究を行った.ロレンツ曲線は人口の累積シェアと所得の累積シェアを結びつける関数で,所得の不平等度を調べるのに重要な関数である.既存研究では単年度のデータからロレンツ曲線のモデルパラメータを推定していたのに対し,本研究では時系列データからより安定的にモデルパラメータやジニ係数を推定するために,ディリクレ分布に基づいた状態空間モデルを考案しマルコフ連鎖モンテカルロ法による推定と将来の各所得階級の割合の予測を行う方法を提案した.また柔軟性の改善のために一般化ディリクレ分布のの利用もこの状態空間モデルの枠組みで試みた.数値実験や家計調査データへの適用から,提案する手法の優位性が確認された SIRモデルは感染症の流行拡大と収束を表す微分方程式に基づくモデルで,疫学分野において広く用いられてきた一方,モデルが単純であるためその軌跡の形状に制約的であるとされてきた.本研究では,2020年4月においてCOVID-19の日本における感染拡大が広がり,緊急事態宣言が発令される状況下で今後の流行の推移を予測するためにSIRモデルを状態空間モデルの枠組みへ導入した.具体的には既存研究に従い,SIRの各コンパートメントのシェアを観測できない状態変数として扱い,SIRモデルの解を平均にもつディリクレ分布を状態方程式に仮定し,陽性者の人口に対する割合を潜在変数のコンパートメントIを平均とするベータ分布に従うと仮定した.また緊急事態宣言以降に感染率パラメータが変化する変化点モデルを考案した.これにより,SIRモデルでは許容できなかった観測データのばらつきをモデルで捉えることができるようになった.
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