最終年度においては,主に以下の2点の研究に取り組んだ. 第一に,「線形射影を用いた多重解像度近似」による最尤推定量・予測分布の高速計算に関する投稿論文の改訂作業を行った.改訂においては,提案した高速計算アルゴリズムの時間計算量,空間計算量,並列計算方法を導出した.これらの改訂後に本論文を再投稿し,最終的に国際学術誌に受理された. 第二に,前述した「線形射影を用いた多重解像度近似」の論文に記載されていた今後の課題の1つに取り組んだ.「線形射影を用いた多重解像度近似」は,共分散関数の近似精度が部分的に悪くなる場合があり,結果として,予測平面に不連続な境界を生じさせる可能性がある.この問題を回避するために,covariance taperingを解像度毎に適用することで改良を行い,最尤推定量・予測分布の高速計算アルゴリズムを導出した.
本研究課題では,大規模な空間データに対する効率的統計解析手法の提案を目標として研究を行った.結果として,既存の効率的統計解析手法の解像度を増大させる形で拡張した新しい高速な推定・予測手法である「線形射影を用いた多重解像度近似」を提案し,国際学術誌に受理された.提案手法は空間データに非定常性がある場合でも適用可能なので,実際の空間データ分析において柔軟に運用できるという利点がある.また,多変量時空間データに対する時空間相関を考慮した効率的なベイズ的テンソル補完法の提案,「線形射影を用いた多重解像度近似」のcovariance taperingによる改良といった成果も得られた.
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