最終年度は主に口頭剖検のための聞き取り調査に含まれるカウント型の質問項目を表現する新たな統計手法の開発に取り組んだ.具体的には,因子モデリングを応用した連続型潜在変数とカウント変数の代表的分布であるポアソン分布を接続する方法を開発した.提案する統計モデルでは個体毎のばらつきを表すパラメータを導入してモデルの柔軟度を高めており,平均と分散が等しいというポアソン分布に内在する制約を除去している.並行して,提案モデルが含むパラメータを推定するためのマルコフ連鎖モンテカルロ法に基づく推定方法も開発した. 研究期間全体を通じて,聞き取り調査データが持つ様々な観測尺度を柔軟に表現できる統計手法を新たに開発した.質問項目間の複雑な相関構造を連続的な潜在変数を使って捉えながら,個々の項目の尺度に応じた変換を行うことにより異なる変数の型を柔軟に表している.また,予測分析を行うために必要な計算アルゴリズムも考案した.実際の調査データを用いた様々なシナリオの下で2値変換に基づく従来の手法との比較を行ったが,現在に至るまで死因分布の推定結果に大きな違いは観測されていない.死因予測分析における質問項目の2値変換の妥当性を示す発見とも考えられるが,提案手法における事前分布の設定等を変えることで推定結果が改善される可能性が残るためさらなる比較分析を重ねる必要がある. 研究期間中に症状・病歴の相関関係が年齢に依存することを指摘し,この特徴を考慮に入れることで死因の予測精度を改善できる可能性があることを明らかにした論文が発表された.今後の展開として提案手法の枠組みにおいて年齢を共変量として症状・病歴を統計モデル化する拡張を考えている.具体的には,質問項目の相関関係を表す潜在変数の同時分布が年齢と共に変化するようなモデリングが考えられる.
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