2022年度は研究計画の第5年目にあたり、Chaney and Ossa (2013)の企業内分業モデルをNeary (2016)が構築した寡占的一般均衡理論に組み込んだKamei (2014)の理論研究を、動的寡占モデルへの拡張研究として進め、国際貿易への適用を続けて行った。この拡張研究では、動的な要素を含む寡占モデルを構築し、企業の競争状況や貿易政策の変化に対する企業の対応を解析した。数値計算により一定の分析が可能となり、いくつかの結果が得られた。その中でも、貿易自由化は静学モデルと同様に両国の企業生産性を増加させうるという分析結果は特に重要である。この結果は、国際貿易政策の最適化や企業戦略の策定に役立つ情報を提供する可能性がある。本分析から得られた研究結果については近日中にワーキングペーパーにまとめる予定である。
昨年度の報告書で刊行予定と報告していた、環境経済学の観点から寡占的一般均衡理論に微分ゲームを導入した動学モデルであるYanase and Kamei(2022)はDynamic Game and Application誌に掲載された。この研究では、環境政策や企業の環境負荷削減活動が寡占市場の競争状況にどのような影響を与えるかを分析している。このモデルは、企業が環境負荷削減を追求する場合や政策制定者が環境政策を策定する際の意思決定に役立つことが期待される。さらに、本研究においては、経済成長・企業生産性といった要素を取り込むことで、モデルの実用性や予測能力を向上させることを目指している。今後の研究では、データを用いて実証分析を行い、理論モデルの予測結果と実際の状況との整合性について検証することを計画している。
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