本研究では、生産と管理という二つの事業プロセスが垂直分離された公益事業の組織最適化の例として、生産業務の外部委託の際に考慮すべき問題と期待される効果について分析することが目的であった。最終年度では、その例の一つとして、日本の下水道事業で頻繁に見られる官民連携の一つの形態である包括委託契約が、ロックイン効果を引き起こしているかどうかを実証的に分析した。ロックイン効果とは、契約相手との取引を通じて資産特殊性が形成され、競争的な仕組みの契約形態であっても同じ契約相手に縛られることで生じる非効率性である。包括委託は、委託業務の遂行のみを規定する通常の業務委託と異なり、資産の補修や原材料の発注などについても受託者の裁量を認めるために委託範囲が広く、契約期間も長くなる傾向があり、ロックイン効果が起こりやすいと考えられる。2007~2017年の全国の下水道事業における包括委託費用を分析したところ、委託範囲が広くなるほど、また契約期間が長くなるほど委託費用が高くなることが明らかになり、ロックイン効果が確かに存在することがわかった。また、契約更新ごとに行われる費用の最適水準への調整は、初回更新の際に大きく行われるものの、2回目以降の契約更新ではほとんど行われないことがわかった。本研究で包括委託の契約デザインについての望ましい在り方が明らかにされたが、今後の研究の発展として、ロックイン効果による費用上昇効果が、包括委託に期待される費用削減効果を上回るかどうかを実証分析することが考えられ、さらなる発展の余地を残している。
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