本研究課題では(1)企業が生産を行う財の品質についての評判や(2)環境汚染の状態が時間をかけて蓄積することを考慮し、長期的な経済厚生について分析した。 本年度は(1)について、新しく生み出された財は品質が直ちに観測されないという点を考慮した一般均衡モデルを構築し、参入規制政策の効果について分析した。研究開発費が参入固定費用に比べて比較的大きいときは、研究開発投資を行わない企業も参入し、こういった状況で参入規制を実施すると、新規企業の質は改善するものの、参入企業数自体が減少し企業間の競争が鈍化し、さらに、参入規制自体に経済の資源である労働し他の部門で使える労働を圧迫するため、最終的に経済厚生が悪化することが明らかになった。一方、研究開発費が比較的小さいときは、質の悪い企業が参入しないため参入規制が必要ないことが明らかになった。これらの結果を論文“Deregulation: Why We Should Sometimes Welcome Even Low-Quality Firms”にまとめた。 期間全体では、上述の研究に加え、(1)に関して、"Long-Run Welfare-Improving Regulation: When Experience Goods Matter"で、短期的な移行過程に分析の焦点を絞ったが、安定性の性質を明らかにするには至らず、今後モデルの改善が必要である。(2)について、"Environmental Quality and Economic Development: The Effect of Infant Mortality"では、長期均衡で持続可能な発展を遂げられるかは初期の人口と人的資本水準に依存することを明らかにした。環境汚染と健康について近年多くの実証研究が行われているため、これらの研究との関連性を明らかにし、研究を完成させる。
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