研究課題/領域番号 |
18K12780
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
服部 昌彦 同志社大学, 経済学部, 助教 (90803718)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | Royalty and Fee / License or entry |
研究実績の概要 |
以下の論文が公刊された。Masahiko Hattori and Yasuhito Tanaka “License and entry strategies for an outside innovator under duopoly with combination of royalty and fixed fee”, Journal of Industry, Competition and Trade, Springer, Vol.18(4), pp.485-502.論文の概要は以下の通りである。 従来の技術よりも生産費用を引き下げる新技術を持つ先端企業を考える。先端企業は新しい市場での利益獲得を目指しており、以下の3つの選択肢を持つ。①旧技術を用いて生産している既存企業へ新技術をライセンスしてライセンス料を得る、②新しい市場へ参入する、③既存企業へライセンスし、尚且つ参入する。これら3戦略の中から外部企業の最適戦略を導出した。先行研究では需要関数と費用関数が線形のものがほとんどであるが、本研究では一般的な需要関数、concaveとconvexの費用関数を用いて分析した。 分析の結果、費用関数がconcaveの場合は、独占市場への参入戦略と独占企業へのライセンス戦略が等しく最適になることが分かった。また、費用関数がconvexの場合は、独占市場への参入かつ独占企業へのライセンス戦略が最適になることが分かった。また、独占企業へのライセンスが行われる場合、独占企業へ常に正のRoyaltyが課されることが分かった。 線形の需要関数、二次関数の費用関数を用いた数値例では、新技術による費用減少効果が小さい時と非常に大きい場合に、正のRoyaltyと負のFixed Feeが用いられる可能性が示されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
RoyaltyとFixed Fee、License or Entryに関わる分析結果を示し、学術誌に掲載することができた。新技術の販売戦略を対象とした分析として、RoyaltyとFixed Feeの違いが長年にわたり注目されている。他企業へ新技術を販売する際に、新技術購入企業が生産を1単位行う毎に一定額を技術販売企業に支払うRoyaltyは、新技術購入企業の生産量を引き下げ、経済厚生を低下させる可能性がある。また、新技術を持つ外部企業が新しい市場へ参入するか、既存企業へ新技術をライセンスするかの選択は時に経済社会へ大きな影響を与えると考えられる。 本年度公刊されたMasahiko Hattori and Yasuhito Tanaka “License and entry strategies for an outside innovator under duopoly with combination of royalty and fixed fee”, Journal of Industry, Competition and Trade, Springer, Vol.18(4), pp.485-502.では、新技術を持つ外部企業と独占市場を考え、外部企業の戦略を分析した。 ライセンスが行われる際のRoyaltyには正のものと負のものが考えられる。負のRoyaltyが課されれば企業の生産量が増えて経済厚生が増加するが、今回の分析では常に正のRoyaltyが課されることが分かった。また、新技術が限界費用逓増か逓減かによって外部企業の最適戦略が変化することを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
今後の分析では、モデルを一般化し、外部企業と複占市場を扱った分析を行う予定である。 これまでの研究では、旧技術を使用している既存企業を1社としていたが、本研究では2社以上の既存企業を想定した分析を行う。前述の、ライセンシングのみを行う際に参入の脅しをかける手段として、新しく二段階のオークションを提案している。初めに、参入を前提としない状態で、ライセンスをオークションにかける。次に、予定した入札が行われなければ、参入を前提とした状態で改めてライセンスのオークションを行う。この時、脅しに信憑性がある場合(credible)と信憑性が無い場合(not credible)に注意して分析を行う。 また、多くの先行研究では線形の需要関数、線形の費用関数(限界費用一定)を仮定したものがほとんどであるため、一般的な関数を用いた分析を行う。ConcaveまたはConvexの需要関数と費用関数を用いた分析を考え、さらに一般化出来る場合には、増加関数または減少関数のみを仮定した分析を行う。 関数の一般化は、理論の適応範囲を広げ、より幅広い経済現象の説明や予測に役立つ。また、今後のさらなる一般化に資するものであり、学術的にも有意義である。加えて、二段階オークションと参入またはライセンシング戦略の分析は、企業の合理的な戦略に関する全く新しい分析であり、より精密な企業の行動分析に役立つものである。 加えて、微分ゲームを用いた分析も考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は論文作成が順調に進み、経費を使用する状況が生まれなかった。以下、2本の論文が学術誌にAcceptされ、現在公刊に向けて作業を進めている。Masahiko Hattori and Yasuhito Tanaka“License and entry strategies for an outside innovator in Stackelberg duopoly with royalty and fixed fee under vertical differentiation”, International Journal of Economic Theory、Masahiko Hattori and Yasuhito Tanaka“Royalty and license fee under vertical differentiation in oligopoly with or without entry of innovator: Credibility of threat of entry by two-step auction”,Keio Economic Studies。 今年度は研究に新たな広がりを与えるため、海外学会への出張等を計画している。
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